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【観劇レポ】ディリバレー・ダイバーズ『忘却のエクストリームアイロニスト。』~その2~

前回の『その1』では、世界的なエクストリームアイロニストである鉄野あいが、事故により記憶を失った事が発覚したところまででしたねぇ。
困惑するダイ、不安を抱えるアイ、2人はどうなってしまうのか?


さぁ、それではまいりましょー!





鉄野家の居間。

失った記憶の手がかりを探すべく、沢山の写真が収まったアルバムを開くアイ。
その隣には、頭を抱えたダイがいる。

アルバムを1枚、また1枚とめくっていく。
だがどれだけ記憶の糸を引こうにも、切れ端さえも見つからない。

アイ「この人、なんで外でアイロンかけてるんですか?」
ダイ「なんでだろうね」

妻の打ち込んでいるスポーツに対して理解に苦しむダイにとっては、『こっちが聞きたいくらいだ』とでも思っているのであろうか。
次々と写真を見続けるアイ本人でさえ、戸惑いを隠せずにいる。

アイ「うわぁ。この人、外でアイロンかけてばっかり・・・!」
ダイ「それキミだよ」
アイ「えっ!?うそっ!?ほんとうだ!!うわぁ、自分がわからない」
ダイ「なんでこんなこと」
アイ「なんでなんですか?」
ダイ「俺が聞きたかったんだよ」
アイ「え」
ダイ「ああ、そうか」
アイ「ごめんなさい」
ダイ「こちらこそ、ごめん」
アイ「・・・いえ」

はっきりとした説明ができないアイ。
日頃から抱えていた妻への疑問をぶつけてみるも、答えるべくもないことに気付くダイ。
誰が悪いとも決められないだけに、思いのやり場に困る2人。

記憶が戻らないことには、何事も始まらないようにさえ感じてしまう。

ダイ「やっぱり、病院は・・・?」

アイは無言のまま、ただ首を振るのみ。

ダイ「あのお医者さんには、どうして言わなかったの?このこと」
アイ「だって、なんだかあのひと・・・ヤブ医者っぽくて」
ダイ「ヤブ医者は覚えてるんだ」
アイ「知らない人たちの中に一人で取り残されるのは、怖いですし」
ダイ「俺は?」
アイ「私たちって、夫婦なんですよね?」
ダイ「えっ」
アイ「夫婦」
ダイ「夫婦。昨日から何回聞くんだよ」
アイ「本当に」
ダイ「本当に」
アイ「夫婦ってなんですか?」

彼女が『事実』として認識できるのは、病院で気が付いた時から今までのきわめて短い時間のみ。
それより過去の事は、どうしても受け入れるのが難しい。
しかもお互いが夫婦という関係性だけでなく、『夫婦とはなんぞや』というところまで忘れてしまっているとは。
ダイは頭の中に浮かぶ言葉をあれやこれやと選びつつ、答えていく。

ダイ「えぇ・・・?・・・永遠の愛を誓い合うヤツだよ。ずっと一緒にいますっていう」
アイ「・・・再現、してもらえませんか?」
ダイ「えぇっ!?」
アイ「・・・その、誓い合うっていうの、やってくれると思い出すかもしれないですから」
ダイ「そんなこと言われても・・・」
アイ「どうぞ、広い所で」
ダイ「仕方ないなぁ・・・」

プロポーズなんて一生に一度の決意で言った言葉なのに、またもそれを言う時が来ようとは。
照れくさい気持ちを必死に押しやり、アイをまっすぐに見つめる。

ダイ「・・・一万年と・・・二千年前から・・・・・・愛してるっっ!!」
アイ「・・・やっぱりわかんないです」
ダイ「やらせないでよ!」

完全に空振りに終わった事と恥ずかしいセリフを言った事で、顔から火が出そうなダイ。
一方、うつむいたままで黙っているアイ。

ダイ「・・・何を忘れたの?どこまで」
アイ「何も・・・」

そういって服のしわを掌で伸ばすアイ。

ダイ「そっか・・・」
アイ「覚えてることと言ったら、ヤブ医者」
ダイ「ヤブ医者は覚えてるんだね・・・。他に無いの?」
アイ「・・・」
ダイ「ないの」
アイ「ごめんなさい・・・ダイさんがどなたで、自分が誰で、どうしてこんなことになったのか、これまで何をしていたのかも、何も・・・」
ダイ「アイ・・・」
アイ「いや、私の、その、アイっていうのも・・・わからないんです・・・!」
ダイさんと私が夫婦っていうのも、全然信じられなくて、ごめんなさい」

話すたびにどんどん落ち込んでいくアイ。
目に見えるケガとは違う症状だけに、何から手をつけていいかわからず戸惑うダイ。

ダイ「やっぱり病院連れて行こうか?」
アイ「病院に行って、治るなら行きます」
ダイ「ヤブ医者だからなぁ・・・」
アイ「どうしたら」
ダイ「大丈夫、記憶なんてすぐ戻るよ。きっと。多分」
アイ「そうでしょうか」
ダイ「どうにかしよう。ちょっと考えてみるよ」
アイ「お願いします・・・」
ダイ「アイの記憶は、俺達で絶対取り戻そう」
アイ「・・・はい」

アイの両肩に手を置いて、力強く励ますダイ。
当のアイはまだまだ不安そうな表情のまま。

そこでダイは腕時計を見やり、おもむろに立ち上がって上着を着る。

アイ「あ・・・どこに」
ダイ「仕事なんだ、実は」
アイ「土曜日ですよ」
ダイ「休日出勤、ごめん」
アイ「あぁ」
ダイ「しかも毎週」
アイ「わぁ」
ダイ「お得意先が面倒な人でさ、『暦通りの休日に訪問してきてこそ誠意を感じる!』って。あっちは土曜日も日曜日も普通に勤務してるからってさ」
アイ「面倒ですね」
ダイ「だろ?まいっちゃうよね」

話の最中もてきぱきと出勤の準備を進めるダイ。

アイ「気をつけてくださいね」
ダイ「え?」
アイ「え?」

出かける相手にかける言葉としてはありふれた言葉のはずなのに、ダイの思わぬ反応に少し驚くアイ。

ダイ「ごめん。なんか、アイにそんなこと言われるのなんて、最近なかったから」
アイ「そう、なんですか」
ダイ「なんていうか・・・新鮮」
アイ「そう、なんですか」

歯切れの悪い口調のアイ。
記憶をなくす前の自分がどういう人物だったのか、あまり肯定的な人物像が浮かばなかったのであろうか。
そうこうしているうちにダイの外出の準備が整う。

ダイ「よし。今日は俺も早めに帰るようにするけど、もうすぐ妹さんも来てくれるらしいから、心配しないで」
アイ「妹」
ダイ「あと、誰か来ても鍵は開けないこと。わかった?」
アイ「はい」
ダイ「よし。それじゃ、いってきます」
アイ「いってらっしゃい」

そうしてダイは玄関へ向かう。
ドアが開き、そして閉まり、鍵を掛け、鍵の閉まりを確認する音が居間にいるアイの耳に届く。

アイ「ダイさんは早く帰ってくる。妹さんも来る。鍵は、開けない」

初めて留守番をする幼子のように、大事なことを反芻しているアイ。
先ほどまで見ていたアルバムを開き、収められた写真の一枚一枚を丁寧に見つめる。

いくばくかの時間が流れた頃。
静寂に包まれていた鉄野家に、インターホンの音が鳴り響く。
そしてドアを開けようとしているガチャガチャという音。
1人残されたアイの元を訪れた、突然の訪問者。
反射的にビクッと体を振るわせるアイ。

アイ「か、鍵は開けない」

扉の向こうからは、複数の男女の声が聞こえる。

タキ「いないっぽいっすね」
ウミ「鍵、開けちゃおう」
マチ「えーっ!?」
ウミ「いーのいーの。ほら」
アイ「へ?」

先ほどダイが閉めた鍵が開けられた音。
そして扉が開き、次々と玄関から居間へ、アイの元へと迫ってくる!

タキ「おじゃましまーす」
アイ「えぇっ!?」
ヤマザキ「あ」

思いもよらぬ訪問者に驚いて胸に抱えていたアルバムを落とし、部屋の奥へ逃げるアイ。
突然のできごとにパニックになるタキ、ウミ、マチ。
ヤマザキだけは落ち着いたものである。

アイ「誰ですか?あなたたち!なんですか!?なんで!?」
ウミ「待って待て待て!怪しくない!私たち、怪しくない者たちよ!」
アイ「妹ですか?」
ウミ「違うわ」
アイ「じゃあそっちの方が!?」
マチ「妹のように可愛がってもらいましたけど・・・」
アイ「じゃあ、妹」
マチ「あ、でも違います」
アイ「なんで妹じゃないんですか!!」
マチ「そんなこと言われても・・・!」

見知らぬ顔が4人も出てきて、錯乱するアイ。
ヤマザキとタキを見て、言葉を続ける。

アイ「じゃあもしや弟が・・・!」
ヤマ・タキ「「違います」」
アイ「じゃあなんなんです!?」
ウミ「血縁関係はないけど、怪しい者じゃないの!」
アイ「怪しいです」
ウミ「うそ!?どこが!?」
アイ「格好が怪しい!その背中のそれ、なんですかそれ!」
マチ「アイロン台です」

いっせいに背中に背負ったアイロン台をアイに向けるヤマザキ達。
エクストリームアイロニストにとってはたしなみとでも言うべき事なのだろうが、今のアイには理解の範疇を超えている。

アイ「どうしてアイロン台を担いでるんですか!」
ウミ「いつでもアイロンを掛けられるようにでしょう!」
アイ「はぁっ!?」
ヤマザキ「どこでもアイロンを掛けられるようにだろう!」
アイ「自宅でやって!」
タキ「アイさん!それ本気で言ってんすか!?」
アイ「こっちのセリフです!普通のアイロン掛けはご自宅で・・・」
ヤマザキ「なんでわざわざ自宅でやるんだよ」
アイ「自宅でしょう普通!!」
ウミ「アイ!!!!」
アイ「はい」
ウミ「・・・見損なったわ」
アイ「どうして?」

軽い侮蔑も混じったように、吐き捨てるようにアイへと言葉をぶつけるウミ。
また、彼ら以外のメンバーも、アイの変わりように愕然とする。
誰しもが目標とする、世界的なエクストリームアイロニストとしてのアイはここにはいないのか。

一方、アイロン掛けが自宅で行う家事であるという認識のアイにとっては、そもそも自宅以外でアイロン掛けをする行為自体がわからない。

ヤマザキ「以前のアイならそんなこと言わない」
アイ「じゃあなんて言ったら?」
ウミ「いつも口癖のように言ってたじゃない」
アイ「なんて!?」
4人「「シワあれば どこにいたって すぐアイロン」」
アイ「出てってぇぇぇぇぇぇーーー!!」

4人の言葉はアイの不安を促進させてしまった様子。
床に落ちたアルバムを拾い上げて威嚇するように振り回すアイ。
タキが、ウミが、紙一重で唸りをあげて襲い来るアルバムをかわす。

アイを囲むようにして距離をとる4人。
重いアルバムを振り回し、肩で息をするアイ。
そして彼女は、辛い心情を思わず吐露する。

アイ「なんなのぉ!?私ってなんなの・・・!?」
マチ「アイさん、本当に記憶を・・・?」
アイ「あなたたち、私を知ってるんですよね?そう言ってましたもんね?」
ウミ「よく知ってるわ」
アイ「本当に!?」
ヤマザキ「そのアルバムに載ってるぞ。俺たち」
アイ「本当に!?」
ヤマザキ「見ろよ!」

アルバムを開いて次々と写真を見やる。
すると山や海など大自然の中で写された写真の中に、アイと親しげに写る4人の姿が有った。

アイ「本当だ」
ヤマザキ「だろう?」
アイ「だったら、誰でもいいんです。教えて下さい。私ってなんなんですか」
タキ「なんなんですかって言われても」
アイ「夫だって言う人は、こんな私と一緒にいてくれない。私ってなんなのか答えてもくれない。アルバムを見ても他の人みたいで・・・私ってなんなの?
どうして私はここにいるの?私が何をしたって言うの?」
マチ「・・・外でアイロン掛けをしたんですよ」
アイ「見たらわかるのそんなことは!なんで外で掛けなきゃならなかったの?
アイロン片手にご満悦で!」
ヤマザキ「そんなことも忘れてしまったのか」
アイ「そうなんです。だから知りたいんです。私ってなんなのか」
ウミ「安心して。私たちは、それを教えにきたの」
アイ「え・・・」

ヤマザキはタキに目配せをし、それを受けたタキは鉄野家の奥へと急ぐ。
そしてヤマザキとウミは背負っていたアイロン台と鞄を降ろし、着々と準備を進める。
マチは手にしていた紙袋を床に置き、ヤマザキ達と比べると小ぶりなアイロン台の組み立てに入る。

そして彼らの前に『闘いの場』が姿を現した。

ヤマザキ「俺たちは思い出させに来た。エクストリームアイロニストとしてのお前を」
アイ「エクストリーム・・・アイロニスト・・・??」
ウミ「エクストリームアイロニストよ。アイ」
アイ「エクストリームアイロニスト・・・」
ヤマザキ「思い出せ。その、栄誉ある呼び名を!
エクストリームアイロニングをいそしむ者の名を!」

そしてタキが再び姿を現す。
手には袋を携え、その中には無数のシワをこさえたワイシャツが。

タキ「ヤマさん!ワイシャツの山がこんなところに都合よく!」
アイ「そんなところに都合よく!?」
ヤマザキ「でかした」

マチに、ウミに、ヤマザキに、それぞれワイシャツを1枚ずつ渡したタキは、自らもワイシャツを手にする。
他の者に遅れをとらないよう、急いで準備を整えた。

そして・・・彼らの周りを包む空気が変わった!

ゆっくりと地面から中空へとアイロンを持ち上げていくタキ。
その先にはヤマザキのアイロンが待ち受けている。
何かを伝達するかのようにアイロンを近付け、そして流れるように別の方向へとアイロンをかざしていくヤマザキ。
自らが受けたものを受け渡すように、ウミの構えるアイロンへと自らのアイロンの接地面を向ける。

物理的には触れずとも、スチームの熱気とともに伝わる魂。
それは単純な熱量の移動ではなく、アイロニストとしての誇り高き魂をぶつけあっているのだろう。
そして彼らの魂は、加速度的に熱を帯び燃え上がっていく!!

ヤマザキは持ち前の力強さを感じさせるダイナミックな動きで、ウミは千歳かつ優雅な動きでスピード感溢れるアイロン捌きを見せる。
一言でアイロン掛けと言っても、個々人でまったく趣が違うものだ。

これはアイロニストの人生の一端をも垣間見せるほどに熱量を帯びたものであり、ただワイシャツのシワを取る作業とは一線を画すものである。
『個としての存在の自己表現』とも言えよう。

それを見つめていたアイは気付かぬうちに拳を握り、自らの汗の感触を感じていた。

アイロンから出ている熱気だけではない。
今、目の前で繰り広げられている行いがスチームの細かな水滴のように彼女の心へ浸透していく。
彼らのアイロン台の上に置かれたシャツのシワが伸びる様を見て、自らの胸にくすぶっていた火種がパッと燃え上がるような想いさえ感じる。

何だろう、この熱さは!?
そんな自問自答を繰り返すうちに、ヤマザキ達のアイロニングは最高潮を迎えようとしていた。

タキとマチのフォローを受け、ヤマザキとウミは最後の一撃を叩き込む!
額に汗をにじませた彼らの前には、雲ひとつない青空のような、清々しいワイシャツが横たわっているのであった!!


満足のいくアイロニングができたと見えて、にこやかな面持ちで後片付けをする4人。

想像を超えたアイロニングを目の当たりにし、思わず拍手をするアイ。
彼女のすぐ横に、また新たな来訪者が立っていることにも気付かず・・・。

アイ「・・・そうか、そうだ、私・・・!」
アツコ「お姉ちゃん」

突然の声に驚いたアイ。
その驚きに連鎖するように、その場にいた誰もが声の出所へと視線を向ける。
そこには小柄で愛らしい顔立ちの女性が立っていた。
彼女は押下圧子(オシサゲ アツコ)、出かける前にダイから話のあったアイの妹である。
※押下はアイの旧姓。アイの結婚前の名前は押下あい。

アイ「お姉ちゃん・・・?」
アツコ「誰です?」

アイ1人だけのはずの鉄野家にいるヤマザキ達を不審に思うアツコ。
そこに食ってかかるタキ。

タキ「あんたこそ誰だよ」
アツコ「質問しているのはこっちですけど。それに、人に名前を聞くときは、まずは自分から!」
タキ「じゃああんたからだろ!」
アツコ「話が通じないわね。怪しい人たち」
タキ「俺たちは泥棒とかそういう類じゃなくて」
アツコ「どこにそんな目立つ格好をした泥棒がいるのよ!バカじゃないの!?」
タキ「面倒ー!この人面倒ー!」

完全に口で負けたタキは訴えかけるような目でヤマザキを見るが、かける言葉が見つからないのか黙ったままのヤマザキ。
見かねたウミは誤解を解くべく、アツコへと声をかける。

ウミ「私たちは、アイの知り合いよ。妹さん」
アツコ「知り合い」
ウミ「エクストリームアイロニング仲間。お姉さんから聞いてない?」
アツコ「エクストリームアイロニング、そう、さっきのが、へえー、そっかぁ」

ぶつぶつとつぶやくようにして何かを探すアツコ。
彼女の言葉はウミや周りの人に言っているのかどうかわからないほどの大きさ。
やがて目的のものを見つけたアツコは、ウミ達に背を向けて立ち止まる。
会話を続ける様子は無いようにも見えるが、言葉を続けるウミ。

ウミ「そう、今ね。アイにちょうどエクストリームアイロニングを見せていて・・・」
アツコ「私ですねぇ!!!!」

ウミの言葉をさえぎるようにして大きな声を発するアツコ。
その声に、ウミを初めとして誰もが驚いた。
彼女の手は棒状の柄を持つ掃除用具から、その柄の部分を取り外していた。

ウミ「な、なに?」
アツコ「・・・・・・エクストリームアイロニングというのがですね」
ウミ「ええ」
アツコ「だいっっっ嫌いなんです!!!!!!」

そう叫びながら、棒状の掃除用具の柄を振り下ろすアツコ。

アツコ以外「「うわあああああああーーー!!??」」

初太刀は威嚇のためなのか、誰もいない空間を切り裂いた。
だが、その振りの鋭さに誰もが度肝を抜かれ、驚きの声を上げた。

マチ「ちょっと!ちょっとさっきから言ってるじゃないですか!
私たちはアイさんのエクストリームアイロニング仲間なんですよ!?」

言い終わるのと時を同じくして、マチの顔先に突きつけられた物体。
それはアツコの手に握られた掃除用具の柄の切っ先だった。
何が起こったか理解できなかった思考に理性が追いついて、ようやく身の危険を感じるマチ。
かといって体を動かすことも声を上げることもできない。
ヘビに睨まれたカエルの心境を、身をもって思い知ることになろうとは。
そんなマチに、そしてアイを取り巻くエクストリームアイロニング仲間全員に、吐き捨てるように告げるアツコ。

アツコ「さっき言ったじゃないですか。私はそれが大嫌いなんです」

めまぐるしい展開に遅れ気味だったアイが、慌てながらもようやく口を開く。

アイ「あの、えと、そこの、私の妹と思しき人!」
アツコ「何?お姉ちゃん」

先ほどまでのドスの利いた声とはうってかわり、いたいけな少女のような可愛らしい声を出すアツコ。
アイは戸惑いながらも、アツコを止められるのは自分だけと思い説得を始める。

アイ「ここまでしなくてもいいでしょ!?この人たちは」
アツコ「私ね!!」
アイ「はい」
アツコ「私ですね!!」
EI仲間「「はい」」
アツコ「たくさん見てきたんです。お姉ちゃんがエクストリームアイロニングにハマって、傷だらけで帰ってくる姿・・・。
見るたびに私は、エクストリームアイロニングが嫌いになりました」
アイ「まずはそれを下ろしましょう、危ないから」
アツコ「危なくないよ、お姉ちゃん。これはクイックルワイパー。自然と調和する心豊かな毎日をめざしている花王が提供する、クイックルワイパーだよ?」
アイ「クイックルワイパーだって使い方を誤れば危険な凶器になりうるわ」
アツコ「聞いてお姉ちゃん。私はね、あらゆる危険からお姉ちゃんを守る為に来たの。たとえ、クイックルワイパーを振るうことになろうとも」
アイ「クイックルワイパーで犯罪者が出ちゃうから」
アツコ「私は、お姉ちゃんを守る為なら何だってするの。決めたのよ。そう・・・お父さんとお母さんがいなくなったあの日から」
アイ「過去が重い!!!」

アイの説得にも耳を貸さず、彼女自身の決意に裏打ちされた信念を曲げようとしないアツコ。

アツコ「やっと会えた。お姉ちゃんを傷だらけにして、ついには記憶まで失くさせた人たちに」

そう言って、ゆっくりとした動きでクイックルワイパーを構えるアツコ。
彼女の目に危険な光が灯る・・・。

ただならぬ気配を察したヤマザキは、愛用のアイロンを右手に携え一歩前へと歩み出る。
そしてウミは危険が及ばぬようにアイを抱きかかえ、アツコとヤマザキから距離を置く。

ヤマザキ「会えたら、どうするつもりだったんだい・・・?」
アツコ「当然。二度と、合えないようにするつもりよ」


一呼吸の間を置いて、ヤマザキとアツコの戦いの火蓋が切って落とされた!!

二人が一気に間合いを詰める。

アツコは上段に構えたクイックルワイパーを素早く振り、次々とヤマザキを攻め立てる。
細身の身体からは想像も付かない、大きな威力を持った攻撃を繰り出してくる。
自分が女性であることを承知した上で、その持てる力を最大限に発揮する術を体得しているのであろう。
無駄な動きが一切無く、的確に急所を狙う鋭い一撃はクイックルワイパーの長さと軽さと便利さを十二分に活かした攻撃であった。
ヤマザキのような屈強な男でも、油断をすれば致命傷になりかねない。

だがヤマザキも只者ではない。
リーチでは劣るアイロンであるが、頑丈さと接地面の広さはクイックルワイパーの猛攻をしのぐのに不足は無い。
逆に懐に飛び込んでしまえば、ヤマザキにとって有利な間合いである。
そこではクイックルワイパーの長さが災いして、有効打は出ないことを知っていた。
とはいえ、連撃をかいくぐって距離を詰めるのは並大抵の度胸ではできない。
歴戦の勇士だからこそできる業(わざ)である。

一進一退の攻防の末、振りかぶったヤマザキの重い一撃をバックステップでかわしたアツコは、死に体となったヤマザキの体へとクイックルワイパーを突きつける。
勝負が決したかに思われたが、とどめをささずに寸止めし余裕の表情を浮かべるアツコ。

命拾いはしたが自らの油断が招いた危機を恥じ、全力で臨む事を決意するヤマザキ。
一旦間合いをとり、ウミの持つアイロンを受け取る。

ヤマザキは彼の両の手に握られたアイロンの接地面をぶつけ合い、気合を入れる。
重苦しい金属音がこだまし、それが第2ラウンドのゴングとなった。

先ほどまでは実力が拮抗しているように見えたが、攻撃と防御とを同時にこなすヤマザキに押され、徐々に劣勢を強いられるアツコ。

振り下ろされたクイックルワイパーを片手で弾き、間髪を入れずに残る手で攻撃を繰り出すヤマザキ。
足、腰、肩、腕と徐々に増幅され伝達されたエネルギーが、最終的にアイロンへと伝わりアツコの腹部へ炸裂する!!
思わず数歩後ずさり、膝をつくアツコ。

勝負は決したと踵を返したヤマザキへ、アツコは残る力を振り絞って一撃を繰り出す!
虚を突かれながらも間一髪攻撃を防いだヤマザキであったが、鬼気迫る一撃により両のアイロンが弾かれた。
その隙を見逃さなかったアツコは、ヤマザキの肩口へとクイックルワイパーを叩きつける!!

苦痛に顔を歪めるヤマザキであったが、クイックルワイパーをがっしりと押さえ込みアツコの動きを封じる。

ヤマザキ「今だっ!!」

号令一下、タキとマチが左右からアツコに飛び掛かる!
そして手にしていたワイシャツを使い、それぞれの手を縛り上げた。
自由を奪われたアツコの両手は左右に引っ張られ、ねじ上げられる。
悲鳴とともに膝をつくアツコ。その形はまさしく『Y』の字であった!
彼女の手から落ちたクイックルワイパーが、乾いた音を出して床に転がる・・・。

敗者となったアツコへと、エクストリームアイロニストとしての誇りを説くべくウミが話しかける。

ウミ「我々アイロニストはね、妹さん。空で海で山頂で、あらゆる過酷な環境下でアイロニングを行う為、日々たゆまぬ鍛錬を積み続けているの」
アツコ「そんなバカバカしい・・・!」
ヤマザキ「何がバカバカしいって?」
アツコ「わざわざ外でアイロン掛けをすることに何の意味があるのかしら」
ウミ「それじゃあ、わざわざ外でボールを蹴り合うサッカーはどうなの?
わざわざ球を投げたり棒で打ったりする野球は?
わざわざ堅い板に乗って雪山を下るスキーやスノーボードはどうなの?
何の意味があるのかしら」
アツコ「それは、れっきとした正しいスポーツでしょう!」
ヤマザキ「エクストリームアイロニングだってれっきとした正しいスポーツだ
競技系アイロニングとして、世界大会だって開催されている」
アツコ「それどうやって競技すんのよ!?」
マチ「アイロン掛けにおける、技術点/芸術点/タイムの3つの総合点で競われます」
タキ「ドイツ・クリーニング協会の審査員が、掛け具合の優劣を見定めるんだよ」
アツコ「バッカバカしい」
ウミ「何にバカバカしいと感じ、何を正しいと信じて真剣に取り組むかなんて人次第よ。それを否定する方が、よっぽどバカバカしい。
そしてアイはたまたまアイロニングに執着してた」
ヤマザキ「それでも、キミはお姉さんが愛したエクストリームアイロニングを嫌うかい?」
アツコ「・・・それでも、エクストリームアイロニングはお姉ちゃんを傷つけた。
夫のダイさんからお姉ちゃんを奪った。私からも。許せるわけないでしょ」

お互いの主張がぶつかり合い、それぞれが抱える信念が少し見えた。
ヤマザキ達がエクストリームアイロニングに打ち込むのも、アツコがエクストリームアイロニングを目の敵にする理由も、お互いに全面的には否定できない。

やがてタキとマチはアツコの腕を拘束する力を緩め、彼女の手が自由を取り戻す。
まとわりついたワイシャツを2枚まとめて床へ放り投げ、彼らに背を向けて立つ。

アツコ「・・・・・・もう、帰って下さい。二度と来ないで下さい・・・・・・今度来たら、取り回しの良いクイックルワイパーハンディも使いますから」

ヤマザキ達はそれ以上語る言葉を持たず、各自アイロン台や鞄を片付けてその場を後にする。
ただ一つ、マチが持ってきた紙袋だけはその場に残し・・・。


静けさを取り戻した鉄野家。
そこに残されたのはアイとアツコの2人のみであった。




・・・というわけで、2回目はここまで。
アツコはアイに何をもたらすのか?
それは次回の、お楽しみ~♪

アクションシーンの迫力も活字から伝わってくれればいいんですけどねぇ。
実はけっこう、書いてて楽しい(笑)


ではでは。
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プロフィール

ケンタ

Author:ケンタ
おいしい食べ物への好奇心が人一倍(一説には3倍)の男です。
自分が美味しいものを見つけるのが嬉しいのはもちろんですが、それを他の人に教えて喜んでもらえる事がより嬉しいです。
まだまだ知らない美味しい物を探しまくります!

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