08
1
2
3
4
5
6
7
8
9
10
11
12
13
14
15
16
17
18
19
20
21
22
23
24
25
26
27
28
29
30
31
   

スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

【観劇レポ】ディリバレー・ダイバーズ『忘却のエクストリームアイロニスト。』~その1~

さぁ、約11ヶ月ぶりのこのテーマ。

私が観て感銘を受けた演劇作品を文章化し、「観ていない人もその作品の魅力を知ってもらおう!」という考えでやっているものです。

劇団によっては(また公演によっては)一般のお客さんも見られるようにと上演台本を販売する場合も有ります。
今回は上演台本を基にして書いていきますが、書いてあるのは登場人物のセリフとト書き(場面や状況を伝える説明文のようなもの)くらいまで。
その場その場の登場人物の心理描写などは私の観て感じたものを書いていきますよ~。
関係者の方で「ちょいとコレは違うんじゃないの?」ってのが有れば、教えてくださいね♪


スタートする前に、作品で取り上げている『エクストリームアイロニング』について説明しておきたいと思います。
ディリバレー・ダイバーズ発行のフライヤーにこう定義されています。
『過酷な環境下(例:富士山頂の崖っぷち等)において平然とアイロンがけをするという、エクストリームスポーツ「エクストリームアイロニング(アイロンがけ)」のプレイヤーのことである。』と。
そして『実在するのである。』と付け加えられているように、実際にこれを競技スポーツとして楽しんでいる人が世界中に存在するというのである。
まじめもまじめ、大まじめな話です。

その競技中に起こった出来事をきっかけとして、様々な人の想いが交錯します。
最後にはどのような結末を迎えるのか、一緒に物語を見ていきましょう!


それでは、始まり始まり~!!





暗闇に響き渡る声。
柔らかながらも凛とした響きを持つ、女性の声。

アイ「どうして気付かなかったのかしら・・・そうよ・・・!シワになったら、アイロンを掛ければいいじゃない」


富士山頂、夜明け前。

そこには風が吹きすさび、温もりを感じられるものは一つとしてない風景。
人の営みとはまったく無縁の、まさに『極限』という言葉がふさわしい場所である。

その中でも最も天に近い場所に立つ、一人の女性。

彼女の視線の先にあるのはそびえたつ山々。
その向こうから、太陽の光が見え始める。
初めは点、それが線へと変わり、地平線を照らし出す幅がゆっくりと広がる。

アイ「・・・いい転機ね・・・突き抜ける程の、エクストリームアイロニング日和」

誰に聞かせるでもなく口から紡がれた言葉。
吹き抜けていく風がその言葉をさらっていき、再び静寂が訪れる。

そして彼女は準備を始める。
鞄から出てきたのはアイロン、アイロン台、ワイシャツ・・・。
通常の登山ではおよそ見ることは無いであろう品物が、アイの周りに準備されていく。

アイの手元では『その時』に備えての準備が着々と進む。

そして天から聴こえる、男性の声。

「エクストリームアイロニングとは、すなわち”究極のアイロン掛け”である。
山や海・滝の中や町の中など、厳しい自然環境下や、ありとあらゆる極限下においてただ普通にアイロンを掛けるという、イギリス発祥のエクストリームスポーツである」


アイの立つ場所よりも少し低い場所(それでも海抜3千メートル以上の高所である)で、歩みを止める男女が1組。

ウミ「・・・いいの?」
ヤマザキ「しょうがない。山岳エクストリームアイロニングは、登りたてに限るからな」

山崎登(ヤマザキ ノボル)、山岳エクストリームアイロニングをこよなく愛する男。
長めの髪を後ろでまとめ、スティーブン・セガールにも似た屈強な風貌。
アイたちのグループにおいて、リーダー的な存在である。

沖田海(オキタ ウミ)、水中エクストリームアイロニングを好む。
登山用の防寒服からは想像するべくもないが、誰もがうらやむ豊満な肢体を持つ美女。
エクストリームアイロニングのキャリアはアイよりも長いが、実績と名声についてはアイの後塵を拝している。
ゆえにライバル意識を持っているのも事実。


高みにたたずむアイを見上げる2人の後方から、乱れた呼吸で登ってくる人影が。

マチ「はーっ・・・!はーっ・・・!はーっ・・・!はーっ・・・!」
ウミ「大丈夫ー?」
マチ「はっ!はっ!だいじょブフォグゴヘフグゲヘホ!オエッ!」

咳とも嗚咽ともとれる症状で苦しむ、小柄な女性。
公園町(キミゾノ マチ)、グループの中でエクストリームアイロニングのキャリアは最も短く、技術的・体力的にも発展途上。
アイに憧れてエクストリームアイロニングを始めた。
もっぱら近くの公園で練習している。

咳き込み膝を突くマチを、後ろから抱きかかえるようにして様子を伺う男性。

タキ「ヤマさん!ウミさん!マチさんが大丈夫じゃないでーす!」

打瀬滝(ウチセ タキ)、滝の中で行うエクストリームアイロニングをきっかけにのめりこむ。
長身の若者で、飄々とした風貌。
思いついた事をそのまま言葉にしてマチとぶつかる事が多いが、将来性を感じさせる腕前。
マチより年下であるが、初心者のマチを上から見下ろすような物言いをする。

彼ら4人はアイのエクストリームアイロニング仲間である。


ヤマザキ「全くだらしがないな」
マチ「だって、ゲフッ!山なんて登るの小学校以来ですし、ゴホフォフ!」
ヤマザキ「富士山だぞ?」
マチ「富士山ですよ!だからでしょう!ロフォス!」

たゆまぬ鍛錬を続けるヤマザキにとっては、日本最高の山でさえほんの庭程度にしか感じないのかもしれない。
だがキャリアの短いマチにしてみれば、富士山登頂は人生の一大イベントのようなものである。
とても涼しい顔で登れるものではない。

タキ「まだ疲れるには早いって」
マチ「疲れるでしょ!!」
ヤマザキ「まだ山頂だぞ?」
マチ「まだって何!?10割方、登ってるでしょ!疲れるでしょ!」
ウミ「そうねえ」
ヤマザキ「そうかぁ」

自分の直面している大変な状況にピンと来ていない周りの3人に対し、不満を爆発させるマチ。
だが言葉と咳が混ざり合い、相手の耳に届くのはまともな言葉になっていない。

マチ「そうです!少し休みませんかゲフフェン!」
ヤマザキ「何言ってんの」
マチ「だからエホ!休みましょゴフォスフォ!」
タキ「はっきりしゃべって」
マチ「ゴホッゴヘフサァーしょうよゲフン!!」
タキ「うん?」
ヤマザキ「なになに?」
マチ「やすゲッフゲッフゲフォソフソン!!」
ヤマ・タキ「「えー?」」

言いたい事はわかるのに、敢えてわからないふりをするタキ。
それに便乗するヤマザキもヤマザキであるが。

見かねたウミは鞄から水筒を取り出し、中のお茶をコップに注ぐ。
そして冷やかしの渦中にあるマチを開放するべく、からかう男性陣へと声を掛ける。

ウミ「ちょっと休まない?」
ヤマザキ「しょうがねぇなぁ」

座り込むマチへとお茶の入ったコップを渡すウミ。
マチはそれを受け取り、湯気の立ち上るお茶をすするようにして飲む。

タキ「もうすぐ夜明けですねー」
ヤマザキ「しょうがないな。今回は新人もいるし」
マチ「すみません・・・」
ヤマザキ「いやいや」
ウミ「むしろ凄いくらいよ。初めてでここまで来れて」

ただでさえ小柄なマチが申し訳なさでさらに小さくなる。
それを察してヤマザキとウミはフォローを入れるが、そんな事はお構いなしにタキの冷やかしが続く。

タキ「体力には自信がありますっつってたのに」
マチ「タキ、うるさい」
タキ「これ来ちゃうなー朝日、顔出しちゃうなー朝日」
マチ「タキうるさい」
タキ「ご来光しちゃうなー」
マチ「タキ!」

皮肉たっぷりのタキの言葉が腹に据えかねたマチ。
彼女の手がすばやく動いたその瞬間、コップに入ったお茶がタキの顔へと襲いかかる!

タキ「うわっ!あっつ、あっつーーい!!」

それまで冷気にさらされていた皮膚へ、熱いお茶がかかったのである。
頭で言葉を考えるまでも無く、すぐさま体と口が反応し奇声を上げながらバタバタと動いている。
マチの行いを咎めることはせず、ただ黙って見つめるヤマザキとウミ。
こういったやり取りは日常茶飯事のようで、注意する気すら起こらないのであろう。

飛び跳ねて熱がるタキはお構いなしに、マチが口を開く。

マチ「でも、すみません。本当なら夜明けと同時に・・・」
ウミ「いいのよ。本来の目的は登頂して朝日を見ることじゃないでしょ」
マチ「でも、アイさんとは随分離れちゃったし・・・」
タキ「そういえばアイさん、どこまで先に行っちゃったんですか?」

ヤマザキとウミがアイの登っていった先を見上げ、それにマチとタキが続く。

空を仰ぐアイの周りにゆっくりと光が差し込み、まるで舞台に上がった女優を照らすスポットライトのよう。
神々しささえ感じさせるその姿に、その様を見ていた4人は思わず息を漏らす。

マチ「アイさん・・・」
タキ「もう、あそこまで準備して・・・!!」
マチ「もう、あんな所まで・・・!?あそこって」
ヤマザキ「富士山頂の最高峰、日本の最高標高地点”剣ヶ峰(けんがみね)”」
ウミ「二人とも、よーく見ておいた方がいいわよ。こんな特等席から見られるなんて、今後ないかもしれないんだから」
ヤマザキ「そう、あれが、世界中で絶対的な実力と知名度を誇るトップ・エクストリームアイロニスト”鉄野あい”の・・・エクストリームアイロニングだ」


充分に熱されたアイロンからスチームが噴き出す。
魂を持たない鉄の塊が今、彼女の手によって至高の神器と化した!

一つとして無駄の無い動きによって、アイロン台に横たわるワイシャツのシワが一本、また一本と姿を消していく。
そして素早い手付きでワイシャツの向きを変え、次々と未開の地を切り拓いていく。

一心不乱にアイロンを振るう彼女の動きは一大オーケストラの指揮者のように見え、そこに吹き付ける風さえもアイロンのタクトに合わせて演奏する楽団の役割を担う。

風が吹き上げた雪煙さえも彼女の舞を演出する舞台装置となり、彼女の勇姿を引き立てた。

そう、ここに、一つの芸術作品が生まれようとしていたのである!


マチ「きれい・・・!」
ヤマザキ「マチは、アイのアイロニングを見るのは初めてだったか」
マチ「はい・・・!」
タキ「何度見ても、すごいです・・・」
ウミ「エクストリームアイロニングの真髄は極限の自然環境との一体化、そしてこれまで自分がおかれていた身体的・精神的負荷の爆発的な開放にあるわ」
ヤマザキ「見ろ。あの達成感と満足感に溢れた表情を。あれが」
マチ「あれが・・・エクストリームアイロニスト・・・・・・!!!」

マチたちの視線の先にたたずむアイは、アイロニングを完遂したワイシャツを胸に抱え、恍惚の表情を浮かべている。
きらきらと光るその瞳は、すでに頭を覗かせた太陽の光に包まれいっそう輝いている。
まるで大自然がアイのアイロニングに驚嘆し、彼女を祝福しているよう。
これこそまさに、自然との一体化を体現したと言っても過言ではないだろう。


エクストリームアイロニスト。
エクストリームアイロニングの危険に挑む者。
強靭な肉体と精神と周到な準備と極限な環境下での対応能力と経験と、何より鉄の平常心が求められる者達の総称
である。

こと山頂では、登山で酷使された体に落下や転倒での死の危険が常に付きまとう。しかし、そんな落下や転倒とは無縁のアイロニストが1人いるのはお分かりだろうか。
そう、その名は”あい”。
彼女こそ僕らに、白く輝く明日への、希望とシャツを与えてくれる、エクストリームアイロニスト”鉄野あい”である!!


舞台はやがて暗くなり、山々や、そこに立つアイたちの姿も見えなくなる。
そして闇に響く、救急車のサイレンの音。
ただ事ではない緊迫感をそこに残し、サイレンの音は遠ざかっていく・・・。
そして舞台は病院へ。


男性のすすり泣く声が徐々に大きくなり、待合室のソファに腰掛ける長身の男性の姿が現れる。
黒いスーツに身を包んだ彼は両手で顔を覆い、しきりに肩を震わせている。
彼の前には富士山から下山したヤマザキ達が、うつむき加減で言葉も無く立ち尽くしている・・・。

ダイ「・・・・・・落下、転倒だそうですね・・・アイは・・・」
ヤマザキ「・・・はい」
ダイ「・・・・・・富士山の山頂の崖っぷちから・・・落下、転倒・・・」
ウミ「・・・はい」
ダイ「・・・どうして、どうしてこんなことになったんだ・・・!!
どうして、富士山の山頂の崖っぷちでアイロン掛けなんてやったんだ・・・
アイロン掛けなんて・・・・・・っくぅっ・・・!」
マチ「心中お察しします」

彼はダイ。鉄野台(テツノ ダイ)。
世界的なエクストリームアイロニスト”鉄野あい”の夫である。

その世界では高名なアスリートの妻に対し、夫である彼は理解を示して応援しているわけではないようだ。
今回の出来事にしても、どう考えたって納得がいかないのである。

混乱しているダイは、自らの口からこぼれる唾液にも気を留めることなく垂れ流し続ける。
その様はシンガポールの象徴的存在、マーライオンを思い起こさせるほど・・・。

アイのエクストリームアイロニング仲間へ声を荒げる度に、糸を引いていた唾液が飛び散る。
その滴がダイのスーツに、そしてヤマザキたちにも降りかかる。
その唾液を拭いたくても、目の前のダイの錯乱ぶりを見ると動けずにいる一同。

タキ「本当に、すみません・・・俺たちがちゃんとアイさんのこと見ていれば、こんなことには・・・!」
ダイ「そういう問題じゃないだろう」
タキ「えっ」
ダイ「君たちがアイのアイロン掛けを見ているかどうかなんてどうでもいい・・・。
問題は、なぜに富士山でご来光を拝みながらアイロン掛けをしていたかだ」
ヤマザキ「ご主人、それは我々の活動として・・・」
ダイ「聞いてます。確か・・・エキサイトホンヤクだったか、大仰な名前ですね」
ウミ「エクストリームアイロニングです」
ダイ「名前なんてどうでもいいんです!」
ウミ「はい・・・」

立ち上がって声を張るダイに対し、縮こまるウミ。
今の彼にはかける言葉一つとっても慎重にならざるを得ない。

沈黙が続く待合室。

いったん高まった感情も少し落ち着いたらしく、改めてソファへ腰掛けるダイ。
ゆっくりと低い声で、問いただすようにヤマザキ達への質問を続ける。

ダイ「事実として、あなたたちとアイは富士山に登り、そこでアイロン掛けをした。そうですね?」
ヤマザキ「そうですね」
ダイ「それによりアイは崖っぷちから落下、転倒した。そうですね」
ウミ「そうですね」
ダイ「アイロン掛けで」
4人「「はい」」
ダイ「もういいです。帰ってください!」

沈静化しかけていたダイの感情は、またも理解できない返答を受けて一気に沸点を超える。
床の一点をじっと見つめたままで顔を上げないダイに対して、ヤマザキ達はめいめいに頭を下げてその場を去っていく。


しんと静まり返った所へ現れたのは、アイの治療に当たった医師、白居独太(ハクイ ドクタ)。
ダイへと声をかけ、状況を説明するドクタ。

ドクタ「ご主人」
ダイ「先生・・・!あの、妻の容体は・・・!」
ドクタ「そんな心配なさらないでください。大丈夫ですよ」
ダイ「本当ですか?」
ドクタ「ええ。ケガも大したことはありません」
ダイ「本当ですか?」
ドクタ「はい。軽い打撲程度で」
ダイ「富士山から落ちたのに!?」
ドクタ「雪がクッションになったんでしょうね」
ダイ「標高が3776メートルもあるのに!?」
ドクタ「ご主人?」

血相を変えてドクタへつかみ掛かるダイ。
普通ならばこの説明でホッとするはずなのに、安心するどころか疑いのまなざしを向ける。
日頃接している患者の家族の反応との違いに、妙な違和感と嫌な予感がドクタの頭をよぎる。

ダイ「雪がクッションになっただって・・・!?バカを言わないでください!!
3776メートルの高さから落下して無事な訳がないでしょう!!」
ドクタ「ご主人」
ダイ「命に別状はありませんか!?」
ドクタ「ありません」
ダイ「妻はサイボーグか何かなんですか!?」
ドクタ「人間です」
ダイ「そんなバカな!」

ダイの荒唐無稽な言葉に、どこから説得していくべきかと軽いめまいを覚えるドクタ。
想像を超えたところで嫌な予感が的中し、心の中で苦笑い。
今日はつくづくツイてない・・・。

ドクタ「奥様は無事、人間です」
ダイ「嘘だ!私を錯乱させないように嘘を言っているんでしょう!」
ドクタ「何を言ってるんですか?」
ダイ「あなたこそ何を言ってるんですか!」
ドクタ「サイボーグなんてあるわけないでしょう」
ダイ「標高3776メートルから落ちて命に別状のない人間なんていないでしょう!」
ドクタ「いや、あの、えーっと」
ダイ「ダメだ、混乱している・・・!」
ドクタ「あなたがね」
ダイ「冷静になりましょう」
ドクタ「なってください」

まるで動物園に保護されたばかりの野生のサルのように警戒し飛び回り、果ては物陰に隠れるダイ。
自分の事を棚に上げ、ドクタへ冷静になるよう促す。
ドクタがダイに向き直り両手を伸ばして下へ下ろすと、鏡写しのようにダイもつられて同じ姿勢をとる。

手を上げ、手のひらを返し、体の横をゆっくり下ろして・・・ふー。

ひとしきり冷静さを取り戻した様子のダイへ、改めて声をかける。

ドクタ「ご主人、奥様は、大した高さから落下したわけではありません」
ダイ「えっ!」
ドクタ「そして、奥様は、人間です」
ダイ「えっ!」
ドクタ「医者が言うのですから間違いありません」
ダイ「お医者様が言うのであれば・・・そうですね」
ドクタ「ええ」
ダイ「じゃあ、後遺症などは?」
ドクタ「特には」
ダイ「例えば、記憶喪失とか」
ドクタ「えぇ?」

一難去って、また一難。
どこまで突飛な展開が待っているのか・・・。

ダイ「よくあるじゃないですか。韓流ドラマなんかではよくあるじゃないですか。
交通事故や転落で記憶を失って『ここはどこですか?私は誰ですか?』って」
ドクタ「あのですねぇ」
ダイ「ありえない話ではないでしょう」
ドクタ「あのですね?確かに、そういった外的ショックによって、その事故あたりの記憶をなくしてしまうという記憶障害はありえます」
ダイ「でしょう?」
ドクタ「ですが、ご主人がおっしゃったような『ここはどこですか?私は誰ですか?』と、全てを忘れてしまうような状態になることは、まぁ、まれですね」
ダイ「でも記憶喪失になったって話は聞きますよ?」
ドクタ「それはほぼ、特殊な脳の病気や、過度なストレスなどでの精神的なダメージによっての発症です。ですから、今回の奥様のような軽いケガであれば、まず大丈夫でしょう」
ダイ「そ、そうですか」

一方の鉄野家。
帰宅したアイは、自宅に帰った安心感は感じられず知らない場所に迷い込んだような様子。
周囲を見回しながらおどおどしている。

そしてダイとドクタの会話は続く。

ドクタ「医者の僕から言わせれば、事故にあって・・・・・・『ここはどこですか?』」

ほうけたような顔でダイを見つめるドクタ。
その視線はダイに向けられているはずなのに、焦点が合っていないようにも見える。
突然のドクタの反応に、さすがのダイも怯んでしまう。

ダイ「・・・病院ですけど」
ドクタ「・・・『私は誰ですか?』」
ダイ「・・・お医者様でしょう」
ドクタ「・・・なーんて話はファンタジーですよ。『小説は事実よりも奇なり』ですね。
ドラマやお芝居じゃないんです。ここは現実。安心してください」

ドクタの演技で狐につままれたような顔をしていたダイも、自分の心配が杞憂に終わると思い胸をなでおろす。

ダイ「よかった。本当によかった」
ドクタ「検査も済ませましたが問題ありません。ご一緒にお帰りいただけますよ」
ダイ「よかったー!本当によかったー!」

一刻も早く妻の元気な顔を見たいとばかりに、病院の廊下を駆け抜けていくダイ。
その後姿を見送り、軽く首をかしげながらも笑みを浮かべるドクタ。


ひとり、舞台に残されたアイ。
ダイと共に病院から戻ってきた我が家にもかかわらず、落ち着かない様子の彼女。
遅れてダイが帰って来る。

ダイ「よかったー。本当によかったー」
アイ「・・・」
ダイ「本当に心配したなぁ。でも良かった。ケガも大したことないみたいで」
アイ「・・・」
ダイ「アイ?どうした?車でも無言で・・・やっぱり体調悪い?」
アイ「あの・・・」
ダイ「どっか痛む?寝てる?」
アイ「あの」
ダイ「なに?」
アイ「あの・・・・・・・・・ここはどこですか?」
ダイ「おや?」
アイ「ここは、どこですか?」

上着を抜いてハンガーにかけてハンガーを戻した矢先に、耳を疑うような妻の一言。
冷静になるべく上着のかかったハンガーを手に取りまた戻す手順をふんで確かめてみる。
・・・どうやら聞き間違いではないようだ。

ダイ「なにを、言ってるんですか?」
アイ「ここは」
ダイ「家でしょ」
アイ「誰のですか?」
ダイ「俺たちの。俺たちが住む家」
アイ「え・・・あ・・・そうか・・・そうなんですか・・・」
ダイ「そうなんです」
アイ「あの・・・」
ダイ「なに?」
アイ「・・・誠に恐縮ですが、お名前をお伺いしてもいいですか・・・?」
ダイ「おや?」

病院で抱えていた不安は、医師の説得で消えたはずだった。
ところがそれは現実のものとして、自分の目の前で起ころうとしている。
そんな予感を振り払おうとするダイへと、アイは不安げな顔で質問を続ける。

アイ「お名前・・・」
ダイ「誰の?」
アイ「あなたの」
ダイ「・・・俺は、ダイです。鉄野 台」
アイ「私は」
ダイ「あなたは、アイです。鉄野 あい」
アイ「・・・」
ダイ「おやおや?」

沈黙を続けるアイの姿に、ダイの胸中に芽生えた嫌な予感は今や大きな渦へと姿を変え、ごうごうと鳴っている。
そして、予感が現実へと変わる瞬間は目の前まで迫っていた。

アイ「・・・あの」
ダイ「なに?」
アイ「・・・・・・私は、誰ですか?」
ダイ「・・・・・・・・・おんやあ!?」


かくして、小説よりも奇妙な現実が今、幕を開けたのである!!




・・・というわけで、今回はここまで。

本編の上演時間は1時間40分ほどと、なかなかの長さであります。
そのため観劇レポも分割してアップしていく予定です。

今のところ『その7』くらいまでで終わらせられたらいいなぁ、なんて思っております。
時期的には・・・そうだなぁ、4月中にはめどをつけないとなぁ。

切れのいいところまで書きあがり次第アップしていく予定ですので、よろしければお付き合いください♪


ではでは。
スポンサーサイト

zmwywaj@gmail.com

カッコいい!興味をそそりますね(^m^)

Re: zmwywaj@gmail.com

ありがとうございます!

とはいっても自作ではなく、札幌の劇団が上演した作品の台本を基に書いてるので、二次創作みたいなもんです。
最後まで書きるかは未定です。
Secret

地球の名言


presented by 地球の名言

プロフィール

ケンタ

Author:ケンタ
おいしい食べ物への好奇心が人一倍(一説には3倍)の男です。
自分が美味しいものを見つけるのが嬉しいのはもちろんですが、それを他の人に教えて喜んでもらえる事がより嬉しいです。
まだまだ知らない美味しい物を探しまくります!

最新記事

最新コメント

最新トラックバック

FC2カウンター

FC2カウンター

現在の閲覧者数:

月別アーカイブ

リンク

検索フォーム

QRコード

QRコード
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。