FC2ブログ
   
11
1
2
3
4
5
6
7
8
9
10
11
12
13
14
15
16
17
18
19
20
21
22
23
24
25
26
27
28
29
30
   

スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

観劇レポ『桜田真希(16)の場合。』

札幌で活動してきた劇団平成商品。

ボスのきむらゆうかさんを初めとして、個性的な面々が揃い、日常的だったり非日常的だったりと色々な世界を観せてくれます。

今回紹介するのは、『桜田真希(16)の場合。』です。
『オズの魔法使い』を題材とした作品で、『脚本家きむらゆうか』として初めての作品に加筆・修正を行って出来上がったのが本作です。

劇団平成商品のメンバーに加え、多数の出演者が客演で登場する作品。
その一番の魅力は歌と踊り!
形態としてはミュージカル、という事ですね。

母と子、家族というものについて考えさせられる作品でした。

文章でその魅力をどこまで表現できるか、まずは挑戦してみます!!

というわけで、劇団平成商品、『桜田真希(16)の場合。』です!!





そこは真っ暗な場所。

少しずつ闇に眼が慣れてくるとわかるのが、そこにたくさんの人影がある事に・・・。

規則性や法則性の無い、あくまでも雑然としたたたずまいでそこに立つ多くの人影。

やがて一つの影が動き、それに触発されたのか、また別の影が動く。

めいめいに口から言葉を紡ぐ影たち。

それらは一貫性を持った問いかけと答えの様であり、また脈絡のない言葉と言葉のすれ違いでもある・・・。

つぶやきが、やがてざわめきへ。

ざわめきが、やがて叫びにも似た言葉の渦へと姿を変えていく。

その渦はある一点を中心として、言葉の流れはその速さと強さを増していく。

その中心にいるのは、一人の少女。

学校の制服に身を包み、カバンを抱えてうずくまっている。

混沌の象徴のような言葉の渦はやがて一つの言葉へ集束していく。

「ドロシー・・・ドロシー・・・ドロシー・・・・・・」

そして少女の周りを回り続けた影たちは、やがて一人、また一人と姿を消していく。

糸が切れた人形のように、地面へと崩れ落ちる少女。

その眠りは永劫に続くと思われたが、意外にも、その眠りは早々に破られることとなる・・・。


・・・周りから小さな女の子の声が複数聴こえる。
どれも落ち着きがなく、年頃の少女特有の雑然さと何物をも恐れない力強さを感じさせる声。

話の流れを推測すると、何かの相談をしている様子。
・・・水を・・・かける?
死んじゃったらどうする、って?
何に?・・・私に!?

何が起こったのか分からないまま、飛び起きた少女。
その視界に広がるのは、まったく見覚えのない部屋の壁と、これまたまったく見覚えのない女の子が3人。
いかにも興味津々というように、少女をジロジロと見つめている。
飛び起きた少女を見て思い思いに騒ぎ立てる彼女たちの容姿は、それぞれにどこか違和感を感じる。

そのうちの1人が「こんにちは!お姉さんは大人?子供?」と無邪気に問いかける。
その問いかけの真意が掴めない事と、何より現在の状況が把握できず混乱するばかりで「誰!?」と逆に問いかけてしまう少女。

「はじめまして、お姉さん!」
「私たちと遊んでよ!」
「大人たちは働いてばっかで、ちっとも遊んでくれない!」

立派な耳で遠くの音も聞き取れる女の子、ダン。
立派な口で遠くまで届く大きな声を出せる女の子、ロン。
特徴的な鼻でいろんな匂いを嗅ぎ当てられる女の子、ハナ。

「この村には初めて来たの?」
「ここ、どこですか!?」
「みんなー!新しい人が落ちてきたよ!!」
「ここ、どこですか?わたし、急いでるんですけど!」

とにかく混乱し、質問ばかりが交錯する。
だが、女の子たちの最後の言葉は、少女の問いかけに正しい答えを提示した。

「ようこそ、ブルーグ村へ!!」

問いかけに対する一応の答えは帰ってきたものの、聞いた事も無い名前に戸惑いは増すばかり。
その瞬間、少女を襲う強烈な頭痛。
耳鳴りが彼女を苦しめた後、見覚えのある姿がそこに。

そこにはパジャマ姿の女の子が立ち、少女をじっと見つめている。
何か思い出せそうになるが、そこで激しい頭痛が息を吹き返す。その痛みに抗えず、たぐり始めた記憶の糸を離してしまう。
痛みは激しさを増す一方で、意識はスーッと遠のいていく。
まるでテレビの電源を切った時のように、視界の中央にすべてが凝縮され・・・消える。
再び意識を失い倒れる少女・・・。


次に目を覚ますまでに、あれからどれくらいの時間が経ったのか・・・。
見当もつかない問いかけを頭の中で巡らせても、答えが返ってくるべくもない。

意識を失う前と違うのは、視界に見える天井。
自分の身体にかけられた毛布。
自分の身体を支えているベッド。

頭痛はほとんどひいていたものの、手足を動かすのさえ億劫なほどに体が重い。
でも、何もわからないまま横たわっているばかりでは不安も増すばかり。
そうして体を起こしたところ、少女にかけられる男性の声。

「やあ、目を覚ましたんだね」

そう言った男性は少女よりもいくらか年上の容姿。
広げていた本を閉じ、体を少女へと向け優しく微笑みかける。
・・・それが『やや頼りない微笑み』である事は否めないのだが、まぁ悪くは無い微笑みだろう。

とはいえ、知らない男性が同じ部屋に居たのでは警戒するのももっともな話。
次から次へと起こる正体不明の出来事に、少女の混乱が収まる気配は無い。

少女の「誰ですか!?」という問いかけに対し、落ち着いて答える青年。
「僕の名前はジャン・・・僕の本当の名前はジャンじゃない。でもジャンって呼ばれてる」

少し落ち着きを取り戻した少女は、自分も名乗ろうとする。
・・・が、自分の名前が、どうしても出てこない。
考えるまでも無く言えるはずの事なのに、探せど探せど見つからない名前。

「キミの名前はマキ。それが君の名前だよ、真希」
知らない相手から自分の名前を告げられる事に驚きつつも、それ以上に自分の頭の中で思い出せない事が多すぎる事に恐れにも似た驚きを感じる真希。

「ここはどこ?」と尋ねる真希に対し、ジャンが答えるのは「僕のベッド」や「僕の部屋」など、あまりにも限定された答え。
望む答えが得られず不安げな顔をする真希に対し、ジャンは「好きな食べ物は?好きな色は?」などと矢継ぎ早に問いかける。
たちまち恐ろしくなってしまい、大きな声を上げてしまう真希。
見知らぬ場所にいる不安感が、一瞬の恐怖をきっかけに爆発してしまったのだろう。

ひとしきり叫んだ事でいくらか平静を取り戻した真希へ、ジャンは周りを取り巻く『世界の在りよう』について説明する。

このブルーグ村にいる村人は身体のどこかが人間離れした発達を見せていて規格外の能力を持っている事、それらの能力を使ってそれぞれの仕事をしている事。
でもジャンには特殊な能力は無く、仕事が出来ないために『嫌われ者』としてつまはじきにされている様子。

そして何より恐ろしいのが、時間が経つとそれまで覚えていたはずの記憶が消えていく事。
自分は気が付いたらここに居たのだが、今は自分がどこから来たのかさえ忘却の彼方にある事・・・。

『忘れてしまう事』を防ぐ手立ては無いが、抗う方法としてどんな小さな事も書きとめているという。
だがそれはあくまでも文字だけの情報。夜空がどんなものか知らない、綺麗に咲く花も知らない、そんな事が彼女の目の前の男性の身には本当に起こっているのだ。

それだけでなく、彼の身に起こった事態は真希にも起こっている。

でも真希にとっては『ここでどう過ごしていくか』ではなく『行かなければいけないどこかへ行く』ために、一刻も早く元の世界に戻る事で頭がいっぱい。


その時、激しい頭痛が再び真希を襲う。
そして、真希の記憶が断片的によみがえる。

・・・そこに立っているのは体格のいい男性。年は40を過ぎる頃だろうか。
スケッチブックを持ち、空を見上げながら筆を走らせている。
傍らには、真希。
その男性は真希の父親、桜田春樹。
妻の奈津紀、娘の真希と美希を愛し、暖かく見守ってきた男性である。
だが彼は、若くして病気でこの世を去っていた。真希が高校に入学した後の事。
これは在りし日の父との思い出の様子なのだろう。

視線は空へと向けつつ、真希へ優しく語りかける父。
「真希、空の色ってどんな色かわかるかい?」

水色、白、朱色・・・傍らに置いてある絵の具を拾い上げてこれかと尋ねるが、どの色を提示しても父は首を横に振るばかり。
「いいかい、空の色は、何色でもない。一つとして同じ色は無いんだよ」
多くは語らず、愛しい娘へと語りかける春樹。
その時しか見られない『その一瞬』を映し出す空の素晴らしさ、そしてそれをたくさんの人に伝えることが出来る絵の素晴らしさを伝えたかったのだろうか・・・。

言葉の意味が全て理解できたわけではないが、これだけは自信を持って言える。
それは真希が、父の春樹を大好きだという事。春樹が新しい世界へ旅立っても、それは決して変わらない事・・・。


真希の回想が終わり、二人がいくぶん打ち解けたところで改めてジャンからの質問。
「君は、何が得意なの?」
「私は・・・」
途端に口が重くなる真希であったが、数少ない彼女の荷物の中のスケッチブックを見つけたジャン。
そこに描かれた達者な絵に、驚きにも似た声を上げる。

「あなたは絵を描かないの?」とジャンに問いかける真希。
「うん・・・苦手なんだ。前に僕の描いた絵を見たクラスの奴らがみんなでバカにして・・・」
『クラス』というフレーズに、言葉にはできないひっかかりを感じた真希。
少しの間思いを巡らせ元いた世界の学生生活の様子が断片的によぎるが、それは意味を持つまとまりになる前にはじけてしまった。
結局は何の手がかりも見つけられなかった。

でもそれがきっかけで、『自分はどこか大事な場所へ行く途中でここに来た』という事に気付く。
扉を開けて外へ出ようと試みるも、内側からは開かない仕組みになっていた。
外から開けられるのを待つしかないとわかり、途方に暮れる真希。


そうこうしているうちに、先ほどの3人娘がジャンの家へと押しかけてきた。
先ほど以上にキャーキャー騒いでいたところ、ひときわ小柄な女の子、ハナがふいに真希のそばへ。
そして真希の身体のあちこちの臭いを嗅ぎだした。
「ねーねー、お姉ちゃんはお医者さんなの?」
真希にとっては何が何やら。
「えーっ、ママの心臓を治したお医者さんと同じ匂いがするー!」と騒ぐハナ。


騒々しさが増す一方のジャンの家へと、もう一人の客人が。豪快に扉を開け放ち入ってきたのはアニー。
耳のいいダンと声の大きいロンの母親であった。
見るからに『肝っ玉母ちゃん』な彼女は、歯に衣着せぬ言動の、豪快な女性。
ブルーグ村の『新入り』である真希へと尋ねたのは、子供たちと同じく『大人か、子供か』という問いかけ。

そう、ここブルーグ村は、一言で言えば『貧しい村』。
それぞれが得意とする事を仕事とし、日の出を待たずに家を出て、星の瞬きを頼りに家に帰る。
雨が降ろうと仕事が無くなる事は無く、日々の糧を得る事で精一杯な者ばかり。
だから一人でも働き手を見つけるべく、アニーがやってきたわけである。

その問いかけに対してどう答えていいか戸惑っていた真希へ、苛立ちを隠そうともせず大きな声を上げるアニー。
そして前髪をかき上げた彼女の額には、大きな『第3の目』がそこに有った。

それを見て驚き、しりもちをつく真希。
それを見て「なんだい!人の顔を見て驚くなんて、しつけのなってない娘だねぇ!」とアニーは言い放つが、それほど過剰な怒り方をしている様子ではない。
逆に言えば、どこかしら体に特徴がある人の方が『当たり前』に存在している世界だという反証にもなるわけである。

改めて自分のいる世界が『普通でない場所』だと感じる真希。
ふと横を見ると、彼女たちが入ってきたままで入り口の扉が開いている!!
この機を逃す手は無いと、すかさず駆け出し家の外へ飛び出る真希!

それを追いかけたジャンの後にはアニーやダンたちが続く。
そしてアニーの指示で拡声器顔負けのロンの大声で応援を呼び、村人総出の大捕り物に!!

だが必死に駆ける真希とジャンを捕える事は叶わず、一人、また一人と脱落していく村人たち。
日頃の労働の疲れが出てきたのだろうか?
まぁ何にしても真希たちにとっては追い風となったわけである。


追っ手を振り切ってたどり着いたのが、ブルーグ村と外の世界を隔てる門。
だがそこは自由に通れる場所ではなく、立ち塞がる門番の姿が。
その細いたおやかな指に挟んだタバコの煙をくゆらせながら、品定めをするかのように真希を見つめる女性。
彼女が門番のリーナ。
頭のてっぺんからつま先までしげしげと見つめ、なにがしか納得した様子。

「悪く思わないでよ、お嬢さん。こっから出ると死ななくちゃいけないんだよ」

そう言うなり、懐から拳銃を取り出すリーナ。
テレビや映画の中でしか見た事が無いそれが現実に、しかも自分に向けられている様を見て、思わず体が硬直する真希!
だが、真希へ向けられた銃口は彼女を襲う事は無く、すぐに別の方向へ。
何を思ったか、リーナは自らの手に握られた銃をこめかみへと当て、引き金を引いた!

思いもよらぬ光景を目にして、言葉が出ない真希とジャン。
・・・だが、リーナは倒れるどころか、何事も無かったかのように振る舞っている!?
「あたいは、死なない!」
そう、彼女は死なない。不死身の門番、それがリーナ。
彼女の役目は『なんびとも村の外に出さない事』。

「金が有っても食料が有っても取られちまうんだよ、エリザの連中にね!」
くぐもった空に向けて口に含んだタバコの煙を逃がした後、吐き捨てるように言うリーナ。

エリザという、初めて聞く言葉に反応する真希。

「ここは下品で貧乏な村だ。あそこは上品で傲慢な村」
そこでジャンから「何でも知ってるし、何でも持ってる・・・」という言葉。
「よく知ってるねぇ?」というリーナの問いに「・・・勉強した」と答えるジャン。

「全部あげなきゃ殺されるよ!エリザの連中はここのやつらよりずっと強い。
・・・そうだねぇ、どうしても出たいんならこうしようじゃないか。10万サラー、耳をそろえて払いな!そうすれば、門を通してやるよ。大金はたいて死ぬヤツなんて、ただのバカだよ。悪い事は言わない、アニーの言う通りに働きな!」

そう言い終わったところで「ママー!」という声とともにリーナに抱きつく少女が。
先ほどジャンの家に来ていた少女、ハナである。リーナはハナの母親だった。
そして周りには、アニーを初め村人が押し寄せてきている。

「何だって知ってる・・・帰り道もわかるかもしれないっ!」
そうつぶやく真希。

「たどり着く前に死ぬかもしれない、それでも行くのかい?」
改めて真希の決意の程を試そうとするリーナ。

危険だと言われてハイそうですか、と引き下がるわけにはいかない真希。
「私は帰る!絶対に!!」と強い決意を口にし、揺るぎない意志をたたえた瞳でまっすぐにリーナを見つめる。彼女を見て興味が湧いたのか、言葉を続けるリーナ。

「だけどアンタ、お金を払う当てなんて有るのかい?」
「それは・・・」

帰りたいという想いとは裏腹に、今の真希にできる事はいくつもあるわけではない。
途方に暮れる真希であったが、さらに雲行きが怪しくなってくる。

この門を越えない限りはどこへも逃げ場はない。

真希は意を決して一つの提案をリーナへ、そしてアニーたち村人へ持ちかける。
「今はそんなお金、持っていません。でも、約束します!私を村の外に出してくれればエリザの人達からみなさんのお金や食べ物を返してもらってきます!お金はその時に必ず払いますから!お願いです!!」

しばしの時間が流れた後、アニーが口を開く。
「そうかい、じゃああんたの言う事を信じてみようじゃないか。だけど覚えておいでよ。約束を違えたらどうなるか・・・!」
ドライな見方をすれば、ひ弱そうな少女は労働力として期待する見込みは少ないが、もしお金と食料が戻ってくれば儲けもの。まぁ仮にのたれ死んだとしても何か失う訳でもない。そんなところだろうか。

自分の誠意が通じた事に、真希の表情がパッと明るくなる。
そして「私の名前は・・・真希。桜田真希!よろしくね!」と一同に告げる。
一度は彼女の頭から抜け落ちた彼女自身の名前。でもそれを取り戻したのは掌に書かれた文字。
脱走する前にジャンが書いた、真希の名前。

そして大きな決意をした人がもう一人。それはジャンであった。
「僕も・・・僕も真希と一緒に行く!!」

ブルーグ村において居場所が無い。何よりそこが彼の故郷ではないのだから。
元の世界に戻ろうとしている真希と自分は想いは同じ。
というより、彼にとっての第一義は『彼にとってはアイデンティティを探すための行動』であったともいえる。

その申し出を快諾する真希。
「僕はジャン!よろしくね、真希!!」
そうして、少女と青年の冒険が幕を開けたのである。


だが、その意気込みとは裏腹に前途は多難であった。
何しろ真希はもちろん、ジャンもエリザの位置を知らないのである。

先ほどの勢いはどこへやら、頼りない態度が頭をもたげるジャン。

行き先が分からないまま歩いてきたものの、目印も、手がかりも、まったく見つけられていない事に苛立ちを隠せない真希。

「何か手掛かりはないの?」という真希の問いかけに、カバンから本を数冊取り出したジャン。
ブルーグ村を出るときに持ってきた、『誰か』の書いた本の数々。

そのうちの1冊に『西の村 エリザ』という記載が!
よく見るとそこには地図も載っていた。
それを見ると、東にブルーグ村、西にエリザという位置関係。
南北にあるのは森で、北の森はマルスの森、南の森はオリオンの森という名称。

まずは目的地エリザを目指し、西へ向かって意気揚々と歩き始めた2人。


すると、どこかから聞こえる声。それは自分たちを呼んでいるように聞こえる。

怯えて立ちすくむジャンを後目に、声の元へと歩いていく真希。

するとそこには、高い木の上にはりつけにされた、一体のかかしの姿があった。
苦労して木から降ろしたところ、元気よく話し始めるかかし。

そのかかしの名前はココ。
性別は・・・とりあえず一人称が『ボク』なので男の子寄り、かな?

ブルーグ村の前任の門番だったココも、リーナが新たに門番になったためお払い箱に。
はりつけにされてしまったまま、いつしか村人から忘れられてしまったとの事。あまりにも酷い仕打ちだが、当の本人は意外なほどあっけらかんとしている。
そして、村からは離れていても会話は全て聞こえていたとのことで、自称『ブルーグ村の情報通』である。
「ボクに出会った事、感謝しな!ボクはお前らの力になるぜ!!」と自信満々にアピール。

その振る舞いに頼もしさを覚える真希。
「でも、一人じゃ降りれなかったから、ボクも感謝してるけどな!」と、謙虚な一面も見せるココ。
そこに便乗して「どういたしまして!」と得意気に答えるジャン。
それには「あんたは何もしてない!」と、真希からの手厳しいツッコミが入る。

「どうすんだ、これから?まずエリザに行くったって何も持ってないだろ?」
「そうだけど・・・」
現実的な問題に直面し、うつむく真希。

そしてココの口から、新たな情報が。
エリザに住む世にも恐ろしい魔女とその使いによって、ブルーグ村の村人はお金も食べ物も何もかも搾取されてきたとの事。
「ただ者じゃないだろうなぁ・・・」というココの言葉に不安がかきたてられ、真希とジャンは顔を曇らせる。
「どうする?」と問いかける真希に、「どうするったって・・・」と自信無さげに答えるジャン。

「そういやお前は?」とジャンへ尋ねるココ。
彼は心の中の不安を打ち消す様に、「僕はジャン!よろしく、ココ!!」と明るく自己紹介する。

すると「おまえがあの『嫌われ者のジャン』かぁ!噂には聞いてたけど・・・噂通りのヤツだな!」と歯に衣着せぬ言動のココ。
言葉面だけ追っていけばあまりにひどい言い方だが、ココのあっけらかんとした雰囲気だとそれもいくぶん和らぐように感じる。
まぁ、当のジャンにとってはたまったものではないだろうが・・・。


ココが加入して賑やかになり、再びエリザへの旅を続ける一行。

日が少し傾いてきた頃、南に位置するオリオンの森へと入った。

怯えた様子のジャンにどうしたのか尋ねる二人。
「お化けが出るかも・・・」とビクビクしながら周囲を見渡すジャン。
木々の隙間を通り抜ける風の音さえ、人外の物のうなり声に聞こえてしまっているのだろう。

周りの木々がざわめきを増したその直後、「誰だ、そこにいるのは!?」と、地の底から響くような男の声が!!

腰を抜かしたジャンはともかく、真希にとっても予想外の出来事で驚きを隠せない。

ズシンズシンと地を揺るがすような重たい音が、一歩、また一歩と聴こえてくる。
眼前に姿を現したそれは、右手に斧を携えた人間の形のブリキ男であった。

すっかり動けなくなった一同の元へ歩み寄り、衣服や体の各所を手で触る。
「これは珍しい素材だな・・・ポリエステル?・・・ここはタンパク質、水分・・・皮膚だな。人間か!」と調査結果を口にする男。

ジャンと真希の『チェック』を終えた後、警戒の姿勢を解いた男。
「おお、こんなところにワラがついているぞ。取ってやろう」と肩や腕を軽く叩いて服についたワラを落としてくれる。実に細やかな気遣いを見せるものだ。

だがそれと同じことをココにもやるものだから、ココはくすぐったがったり痛がったり。
どこを触れどワラの反応しかない事に、疑問から恐怖へと変化するブリキ男の感情。
「ワラ、ワラ、ワラ・・・ワラが喋っているよーーー!お化けーーーー!!!!」と叫び出す!!
それにつられて驚き叫ぶジャン・・・。

「ストーップ!・・・どういう事?」と、あくまでも冷静に事態の把握を図る真希。

冷静さを取り戻したブリキ男は「申し遅れました、私はブリキのドリーという」と丁寧な口調で自己紹介を始める。

「何だコイツ!鉄で出来てる!持って帰るかー!!」とはしゃぎだすココを「うるさー!!」と一喝する真希。

そしてドリーの口から、彼の身の上が語られる。
彼とて、初めからブリキの身体だったわけではない。昔は真希たちと同じ、人間だったのである。
有名な木こりとして綺麗な婚約者と暮らしていたドリーであったが、ある日意地悪な魔女に呪いを掛けられ今の姿に身をやつしたのである。
もう二度と人間には・・・戻れない。

「お気の毒・・・」と言葉を詰まらせる真希。
「お気楽ってお前、失礼だぞ?」と、ココ。
・・・やれやれ。

そしてドリーの話は続く。
婚約者は彼の面影無い姿に驚き、もう会えなくなってしまった。
人目から離れたこの森で、もうずっと独りでここに居る・・・。

「魔女はどうして?」と問いかけるジャン。
「知った事じゃない。もう涙も出ない、笑えもしない・・・大切な心を失った」
言葉を詰まらせるドリー。

その様子を見て声をかけるココ。
「落ち込むなよ、そんなヤツはいっぱいいる。ボクは人間じゃない。でも僕だって笑えるぜ!あんただって出来るはずだ」
「・・・無理だ」とつぶやくドリー。
「あんたにはそんなに素敵な頭が有るじゃないか!ボクは空っぽ!何にも入っていない!」
「頭の中が空だって!?じゃあ、どうやって!?」
人間のように流暢に話しているココを見て、驚きを隠せない様子のドリー。
「僕はね、生まれてくる前に母ちゃんのお腹の中に脳みそを忘れてきたの。もう顔も覚えていないから脳みそもらって、会いに行くんだよ!」
「もらいに、って・・・一体どこへ?」

「私たちは帰り道を探しに行くの」と真希。
そしてジャンが続く。
「手がかりを探しに、エリザへ」


それまでの皆の事情をひとしきり聴いて、考え込んでいる様子のドリー。
身をもって西の魔女の恐ろしさを知っている彼にとって、真希たち一行の様子は正直に言って心もとない。

そして、考え抜いた末にドリーの出した結論は、自らもエリザへの旅へ同行するというもの。
一同はそれを快諾し、笑顔で迎える。
握手を求めた真希に応じ、ドリーも手を差し出そうとするが・・・右腕が上がらない。
長く続く雨により、彼の身体のあちこちが錆び付いてしまっていたのである。

「すまない、そこにある油を私の身体に差してくれないか?」
指示した場所にある油を使い、関節部に次々と油を注す真希。
これも、仲間としてのコミュニケーションの一つの形であろう。

かくして、真希一行に、新たな仲間ドリーが加わったのである!



その後一瞬にして、舞台全てが闇に包まれる。
やがて、そこには携帯電話で話す真希と美希が浮かび上がった。

「お姉ちゃん、あの絵、ありがとう!!とってもキレイだね!!」
いつになく弾んだ声の美希であったが、覚えのない真希は返す言葉が見つからない。

どう答えていいものか考えあぐねる真希の様子を察し、美希が言葉を続ける。
「えっ?お姉ちゃんが置いてくれたんじゃないの?あのスケッチブック・・・」
やはり真希には話が見えてこない。
ところが、美希の元にあるスケッチブックの特徴を聴くにつれ、疑問が推測へと変わり、それが確信に変わっていく。
美希が見ているそれは、彼らの父が使っていたスケッチブックであった。
その正体が判明しても、『なぜ父のスケッチブックが美希の病室の前に置いてあったのか』という疑問の答えは一向に見えてこない。
「そっちに行くから!」
そう言って美希の返事も待たずに電話を切り、駆け出した真希・・・。
はやる気持ちを抑えながら、病院へ向かうバスへと乗り込む・・・。


そして場面は真希たち一行の様子へ戻る。
「ホントにそれ、話をする道具なのか?」
「うーん、間違いないと思うんだけど・・・」

問いかけるドリーに対し、自信無さげに答える真希。
持ってきたバッグの中に有った携帯電話を見て『折りたたんだ形状から開いて、耳に当てて相手と話す』という使い方であるところまでは思い出した。
でも、叩いても引っ張ってもひっくり返しても一向に反応しない機械に、一同がっかり。

ジャンの自慢のメモ帳の中にも携帯電話の記述は無い様子。
必死にページを手繰るジャンをからかうように、それを覗き込むココ。
「うわっ!スゲー!字ぃばっかだなぁ!!・・・でも、絵は描かないのか?」

その問いかけに気分を悪くするジャン。
相手がココでは、自信の無い自分の絵を見られたらどんな酷評が待っているか・・・。考えただけでげんなりしてしまう。

ところが、話は真希の方へもやって来る。
手にしているスケッチブックに視線が集まると、おのずと真希の描いた絵にも話題が及ぶ。
だが、浮かない表情の真希。

絵を描くことが好ましい感情ばかりでないのは、彼女自身にもその理由がはっきりしない。
それもこの世界にやってきて『忘れてしまった事』の一つである。

実際の所、真希にとって絵を描く事は『父との絆』であり、ある意味でスケッチブックはその象徴でもあった。
細かな経緯は忘れてしまったものの、『スケッチブックは大事な物』という事だけは強く心に刻まれている。

スケッチブックの中身に興味津々なココは真希が嫌がるのもお構いなしに、強引にスケッチブックを引っ張る。
それに抵抗する真希との引っ張り合いの結果、中にある1ページが破れてしまう。

たかが1ページ、されど1ページ。
大切な物を傷付けられて、心穏やかではない真希。
思わずしゃがみこみ、うなだれる・・・。

なんとなくバツの悪いココは、話をジャンに振る事で雰囲気を変えようとする。

周りに促され、どうしても断りきれなくなったジャン。
スケッチブックへとペンを走らせる。

しぶしぶ描いた彼の絵を見て、一同はポカンとした表情を浮かべる。
そう・・・それが何を描いたものなのか、皆目見当がつかないのだった。

形は・・・丸。でもそれ以上の情報は、スケッチブックに描かれた『それ』からは伝わってこない。
クイズ大会の様相を呈してきた事に、改めて絵を描いた事を後悔するジャン。
作者本人からそれが『りんご』である事を告げると、さらにまたココが騒ぎ出す。
・・・正直言ってもう、ため息しか出てこない。

ところがその直後!
描かれたりんごがスケッチブックを飛び出し、現実の物として具現化したのである!

何が起こったかわからず、ただただ驚くばかりの一同。
しかし順応するのも意外に早いものだった。なにぶん、いろんな能力を持った人間がたくさんいる世の中だけに、『描いた絵を現実のものにできる』という能力があってもおかしくないのだ。
これまで気付かなかった自分の能力に、興奮を隠せないジャン。
「自分は何もできない」と思ってきた彼の中で、まだ小さいけれど、確かな自信が生まれつつあった。
どんな大樹も始まりは一つの芽から・・・。


そして、とっぷりと日も暮れて周りも見えない状態に。

旅の道中、気の利いた宿泊施設など望むべくもない。
でも、できることであれば野宿は極力避けたいところである。
エリザへの道中、今がどの地点なのかもはっきりわからない旅であるから、体力は温存しておくにこした事はない。
せめて雨風をしのげるような所は無いか・・・。

ふと、ジャンが前方を指さし「ほら、あそこにテントが見えるよ」と声を上げる。

一同の視線の先には、草原のど真ん中にそびえたつ大型のテント。
「なぜこんな所にテントが・・・」という疑問よりも、一夜の寝床を得る方が優先される一行であった。


テントの中に入ると、そこはステージと客席に分かれていて、ステージ上ではショーが始まった様子。

そう、ここはサーカスのテント。
その中では『タオサーカス』のショーが始まったところであった。
「そんなあなたに、タオサーカス!!」が決まり文句で、派手な衣装の団長と、これまた派手な衣装のアシスタントが観客の心を盛り上げていく。

とはいえ観客は、少女、少年、かかし、ブリキのきこり・・・以上。

観客の入り、立地場所、どう見ても興業として成立しそうな様子は無い。
『サーカスのショーを見せる』という事が、彼らに課せられた『仕事』や『義務』なのか?
だが、その答えを持つ者は、いない。


最初の出し物は、計算ができる頭のいいネズミ。

歴史の年号や数学の計算式を次々と解いていくが・・・正直言ってビミョー。
『ネズミがこれだけできる』という観点で見るべきなのか、はたまたこの世界での知識水準で言えば人間をも凌駕するのか・・・これまた答えを持つ者は、いない。

団長の「ご褒美にチーズをあげよう」という言葉に、ネズミはあまり嬉しくない様子。
「そうか、アレルギーが有るんだもんな」とつぶやきチーズを引っ込める団長。
ネズミは安堵とも落胆ともつかない表情を浮かべ、彼の出番を終えて舞台袖へと足早に去る。


そして華やかな演奏と共に、ショーの展開もクライマックス目前!!

メインイベントとして紹介され、舞台袖から姿を現したのが、鎖に繋がれたライオン。
その力を誇示するように観客を威嚇して、アシスタントの持つ鎖の及ぶ範囲を縦横無尽に駆け回る。

そしてアシスタントの手から団長へと引き継がれる。
団長の口から「皆さんお気を付けください!決して物など投げないように!!」と注意を促す言葉が。そうする事でライオンの凶暴さをより強調しようとする意図が見える。

きてショーは最高潮に・・・なるはずだったのだが、そうもいかないようだ。

団長から玉乗り芸の予告をしたところ「えっ、いや・・・まだ一回も成功した事ないよ・・・!」とキョトンとした顔で答えるライオン。
聴こえなかったふりをして再び玉乗りの疲労を宣言する団長。
「えっと・・・それにまた、足の爪とか割っちゃうし・・・」と弱々しく答えて遠まわしに拒否する。

見ている方が気まずいくらいの間が流れ、若干目が泳いだ様子で団長が声高らかに火の輪くぐりの芸を宣言!
アシスタントが2人出てきて、若干大げさなくらいのリアクションで火の輪を掲げる。
だがその直後、「あっ、それ、熱いヤツでしょ!?やだっ、やだーーーっ!」と、悲鳴にも似た大きな声を上げて拒絶するライオン。
その声は客席にいる真希たちにまで筒抜けであった。

「お前、覚えてろよ!」と、観客の前で醜態をさらしたライオンを叱る団長。
当のライオンは登場したばかりの猛々しさはどこへやら、ネコよりも小さくなっておびえて謝るばかり。

結局、ぐだぐだな状態のままで今回のタオサーカスのステージは幕を下ろした・・・。


そのライオンの名前はバル。
サーカスの花形スター・・・になれず、いつも肝心なところで音を上げてしまう。

楽屋裏では団長が大声でバルを叱っている。
本番で芸を披露できなかったのは今回が初めてではない様子。
これまでの積み重ねも踏まえ、団長としては我慢の限界。

真希たち一行は一晩の寝床を求めて団長の元を訪れた・・・が、どうも悪いタイミングの場面に出くわしてしまった様子。

「もう我慢できん!おまえはクビだ!!とっとと出て行け!!」
テントの端から端まで届きそうな声が響き渡り、辺りは一瞬、静寂に包まれる。
刺すような団長の視線にいたたまれなくなり、泣き叫んで駆け出すバル!

後ろをロクに確認しなかった彼は真希にぶつかり、事も有ろうに真希のスケッチブックをひったくっていったのである。
思うよりも体が先に動き、バルが去って行った方向へ駆け出す真希。
一瞬の事で呆気にとられていたジャンたちであったが、ただならぬ気配を察して後を追いかけた。


人気のない場所までやってきて、やがてうつむきながら立ち尽くすバル。
これまでのサーカスでの生活と優しい仲間たち、そして大好きな団長の顔が次々に浮かんでは消える。
そして先ほどの団長からの絶縁宣言・・・。

怒りとも悲しみともつかない激しい感情がバルの心の中をかき乱す。
その矛先を真希のスケッチブックへ向け、それを破ろうとしたところに駆けつけた真希!

彼女は臆することなくバルに向き合い、そしてバルの頬を叩く。
「パチンッ!」という音が周りに聞こえるくらい豪快なビンタを見舞われたバルは、驚きと怯えで言葉もろくに出せない状態。
混乱しているさなか、初対面の女の子に頬を叩かれたのだから無理もないのだが・・・。

これまでのいろんな気持ちがないまぜになり、バルは激しく泣き出した。

身体は平均的な大人の体格を遥かに上回っているが、目の前の彼は迷子になった子供のように、弱々しく、儚げに見えた。
誰からも声をかけることなく、ゆっくりと穏やかな気持ちでバルが落ち着くのを見守っていた・・・。


真希たちの旅の目的を聞いたバル。

「おまえさんは、どうするんだ?」というドリーの問いかけにも深く考え込んでいる様子。
あれほどの激しい怒りをもって叱責を受けたバルにとっては、タオサーカスが長く馴染んだ場所だとしてもそうそう戻れたものではない。

そして、何かを決心した様子で立ち上がるバル。
「僕も・・・僕も連れてって!!」
意外とも言えるバルの申し出に、目を丸くする一同。
「エリザに行って魔女に勇気をもらうんだ!そして団長やみんなに恩返ししたいんだ!」

突然の申し出で少々の戸惑いは有ったが、すぐに皆暖かい笑顔に変わる。
かくして、『勇気の無いライオン バル』が仲間になった!

バルは以前、エリザの村へ行ったことがあるとの事。
西の魔女に呼ばれてタオサーカスがショーを見せた際に、バルも同行したそうだ。
まぁ・・・魔女は満足していた様子ではないようだが。

とにもかくにも、水先案内人が加わり旅は続く。


いよいよエリザの村にたどり着いた一行。
そこは『村』とはいっても立派なお城がそびえたち、ある意味異様な風景。

ブルーグ村と同様に入り口には門が有り、村へ入るにはその門をくぐる必要が有った。
だが門は閉ざされているうえ、門番の姿が見当たらない。

だからといって、そのまま待っていても埒が明かないのは明白な事実。
ドリーが進んで門を叩いたところ、少し時間をおいて門の向こうから声が聞こえる。
「門は崩れやすいから2回以上ノックするな、ってそこに書いてあるでしょう!貼り紙が見えないのか!?」と怒気を含んだ声。

とはいえ、門や門扉を見渡しても、そこに貼り紙らしきものは見当たらない。
それは一行の誰の目から見ても明らかだった。

「貼り紙なんて、有りませんよー」と答えると、やがて門が開き門番が姿を現す。
真希たちへ言葉を掛ける事はせず、しげしげと門の周辺を見つめる。
そして何も言わずに素早く門の中へと戻り、再び出てきた彼の手には例の貼り紙が・・・。

『貼り紙が貼ってあるにきまっている』と思い強い口調で言った手前、バツが悪そうに一行の誰とも目を合わせず貼り紙を貼った。
そして満足げな表情のまま何も言わず、門番はまた門の中へと引っ込んでしまった。

真希たちはお互いに顔を見合わせ、どうしたものかと考える。
再び門をノックした所、今度はうやうやしい態度で出てきた門番。
「先ほどは、私の弟が失礼いたしました」と言うなり頭を下げる。
さながら宿泊客を出迎えるホテルマンのように、接客スキルの塊のような礼をしている。
「・・・さっきの人、だよね?」と皆一様に思っているはずだが、なんだか口に出すのがはばかられる雰囲気が辺りを包んでいた。

そして門番は特に何かを要求する事も無く、真希たちを招き入れたのであった。
とにかく、何事も無く(門が崩れることもなく)門を通る事ができたわけである。

順風満帆に進んでいる道行きに見えたが、事態は思ったよりも複雑に進行していく・・・。


真希にとって初めて目にするエリザの村の景色は、ブルーグ村とはあまりにもかけ離れていた。
道行く人は思い思いに着飾って、すれ違うたびににこやかに挨拶を交わしている。

ところが大きな違和感を感じる点が。
挨拶の言葉が「お誕生日、おめでとう」なのである。
「おはよう」でも「こんにちは」でも「ごきげんよう」でもなく、「お誕生日、おめでとう」なのである。

そして挨拶が終わると、それぞれに手にしていたものを相手に渡し、代わりに相手からプレゼントを受け取っている。それを会う人会う人に対し繰り返しているのだ。
まるで『誕生日の挨拶』と『プレゼント交換』が物事の全てであるように。

そうこうしているうちに、通行人の一人がジャンへと声をかける。
ご多分に洩れず派手に着飾ったその婦人は「お誕生日、おめでとう」と声をかけ、手に持っていた箱をジャンへ差し出す。
「えっ?いいんですか?」と戸惑いながらも手を伸ばすジャン。
それを必死に止めようとしたドリーやバルの想いもむなしく、ジャンは差し出された箱をそのまま受け取ってしまった。

次に起こすべき行動に、ジャンは全く気付いていない。
何もしないでいるジャンに対し、その婦人は『ジャンが何も差し出さない事』に腹を立てはじめる。
エリザの村では当然となっている『プレゼント交換の鉄則』が守れなかった事で、一行は周囲の人間からも非難を浴びるようになってしまう。

エリザの村人によって連れていかれた先は・・・。


入り口で見たお城のような建物は、豪華や贅沢という言葉の見本であるかのような空間であった。
美術館にごろごろしているような調度品、年季の入ったいかにも高そうなアンティークの家具。
この分だとスプーン一本でさえも途方もない金額の品物ではないかと、要らぬ想像まで浮かんでしまうだろう。

普通の生活をしている人間には落ち着きようもないその場所に、真希たち一行は居た。

その場所こそ、彼らの旅の目標である『西の魔女』と呼ばれる人物、ジャムの住まい。
・・・まぁあまり良い趣味とは言えないが。

一行をもてなす執事のような風体の男、彼の名はマーガリン。
西の魔女へ仕えている男である。

真希たちへお茶を振る舞いつつ、魔女が出てきた時の注意事項を説明するマーガリン。
「ジャム様は、ご自分の武勇伝を小一時間お話になります。その間は、決して話してはいけません。決して、です」

それに対し「わかったー!」といの一番に返事したのはココ。
だがココの性格上、じっとしていられないであろう事は明らかである。
面会が始まる前から不安を感じる展開。

ジャムとの面会時の注意点について説明が終わった頃、先ほど出された紅茶のカップを早々に引き上げるマーガリン。カップを持つ手から、半ば奪い取るようにして回収していく。

だが、カップを無理に引き上げようとしたマーガリンに対し、抵抗する姿勢を示すバル。
まだまだ飲んでいる途中らしい。・・・猫舌だからゆっくり飲んでいたのだろうか?

事が予定通り運ばなければ苛立つ性格なのか、マーガリンも手に加える力を緩めようとはしない。
ライオンとしての本能がそうさせたのか、吠えて威嚇したのだが・・・すると!手にしていたカップが大きくなった!?

そう、バルの持っている能力は『吠え声を浴びせた対象を大きくする』というもの。
サーカスでこれを披露すれば良かったのではないかと思うのだが、まぁ、それはそれ。


大きくなったティーカップの片付けに難儀するマーガリンへ、真希が声をかける。
「私、元の世界へ帰る方法を知りたいんです!」
それに続くようにして、それぞれの望むものを口にする一同。

マーガリンからの答えは、意外にも早く出された。
「いいでしょう。・・・その代わり、あなたがたはジャム様の治めるこの村の住人になってもらいます。それでいかがですか?」

すんなりと事が運んで喜んでいた者もいたが、ドリーは冷静に皆を諭す。
望みが叶っても、エリザの村から出られなくなってしまっては本末転倒である、と。
マーガリンの巧みな言葉に潜んだ罠を回避し、ひとまず体勢を立て直す。

と、遠くから聴こえる女性の声。
まるでオペラのように高らかに声を響かせ姿を現したのが、西の魔女ジャム。

身を包む洋服にたっぷりと付けられたレースをひらひらさせながら歩き、真希たちに気付く素振りも無くマーガリンへと怒鳴り散らす!

「マーーーーガリン!!私の食事の時間、もう5分も過ぎていますわよ!!」
そう言い放ち、右手でマーガリンのネクタイを引き絞るジャム。
マーガリンの目をまっすぐに覗き込むその様は、『暴君』という言葉がピッタリな様子。

「・・・い、今すぐに」という言葉を絞り出し、解放されたマーガリン。
窒息するのは免れたようだが、少し咳こんでいる。
自分の要望を通すためには全く手加減をしないのがジャムの流儀の様である。

そしてジャムが『客人』への挨拶を終えた直後に、真希たちはそれぞれの望む物が手に入るか質問する。
「それでは、代わりに何をいただけるのかしら?」
あくまでもギブアンドテイクが前提の条件として考えているジャムに対し、交換するに見合ったものを持ち合わせていない事に皆が口ごもる。


「それぐらい、いーじゃないかよ!頼むよーー!」といつもの調子でジャムに声をかけるココ。

その態度をとがめたマーガリンに対しココは「細かい事気にすんなよ、おっさん」と切り返す。
その瞬間、彼らに背を向けて体を震わせ、ブツブツと何かつぶやいているマーガリン。どうやら、ココがマーガリンに言った「おっさん」という一言が、マーガリンの逆鱗に触れてしまった様子。

怒りで身体を震わせ「今『おっさん』って言ったのは、おまえかああぁぁぁーーー!?」とココを凝視して問いただす!
だが、彼にとって禁句である言葉を言った本人のココは、平然と「コイツだよ」と言ってジャンを指さす。
いつものやり取りの流れと同じだが、今回は相手が悪すぎた。
誤解だと説明しようとしたジャンに対し、両手を向けて何かを念じるマーガリン。
そしてその直後、ジャンの口が動かなくなったのだ!!

マーガリンの持つ能力は『相手の身体の自由を奪う』という、恐ろしいものだった!

ジャンを開放するよう、マーガリンへ詰めよる一同。
特に、普段は落ち着きのあるドリーの様子がただごとでない。

ドリーをしげしげと見つめて何かを思い出した様子のジャムは、あざけりの混じった笑いとともに、ドリーへと声をかける。

「あら、あなたはいつぞやの木こりじゃありませんか。そんな恥ずかしい体で、まだ生きてたのね」
「ああ、おまえにこんな姿に変えられた事を忘れる事などできるものか!エリーは・・・エリーはどこだ!?」
「私よりも可愛いと評判だった生意気なあの女ねぇ、・・・お人形にしてあげたけど飽きちゃったから、ブルーグ村辺りに捨ててきたわ」

そう、自らがこの世で一番美しいと信じて疑わないジャムは、自分よりも綺麗な存在は有ってはならないとも思っている。もしも美人だと噂の人物が現れれば、自らの存在を脅かすものとして『処分』してきたのだった・・・。

だが、ドリーにとってはあまりにも理不尽で、あまりにも身勝手。
幸せに暮らしていた自分とエリーの絆を断ち切られた理由としては、到底納得が出来るはずもない!
真実を知り、怒りに我を忘れるドリー!
ジャムに飛びかかろうとした瞬間!

マーガリンの力によって体の自由を奪われてしまう!
そして、助けに入ろうとしたココやバルも動けなくなる。

まさに絶体絶命のピンチ!!


自らの無力さを痛感し、どうしていいかわからず立ちすくむ真希。

すると真希の姿を見つめていたジャムが声を上げる。
「あらぁ!!あなた、とっても素敵な靴を履いているのね。それを私に譲ってくだされば、お仲間を自由にして差し上げてもよろしくてよ♪」


「これは・・・この靴は・・・」
うつむいて何かを思い出している様子の真希。
そこでフラッシュバックが起こり、今は亡き、真希の父親とのやり取りがよみがえる。

「真希、高校入学おめでとう!これ、プレゼントだよ」
「わぁ、嬉しい!ねぇ、開けてみてもいい?・・・わぁ!この靴、とっても素敵!ありがとう!お父さん!!」
「・・・いいかい、真希。真希は美希に、いろんなものを見せてあげるんだよ」
じっと父を見つめ、何かを想う真希・・・。


そして、父との思い出の詰まった靴をじっと見つめ、ジャムからの要求を頑なに拒む真希。
「早く渡しなさい!」
「いや!!」
部屋にはジャムと真希の言葉が何度も何度も繰り返し響き、やがて真希はその場に座り込んでしまう。

「あ~らそう!私の望みを無視するなんていい度胸ね。じゃあ、いいものを見せてあげるわ」

そう言った後、ジャムは真希の背後へと立つ。
そしてゆっくりと両手を出し、真希のこめかみを包み込むように添える。
真希の中で、押さえられていた何かが動き出す・・・。


しばしの間、闇が訪れる。
そして浮かび上がった中には、ベッドに腰掛けて座っている少女の姿が。
それは真希の妹、美希であった。

心臓の疾患を抱える美希は、長い間、病院のベッドの上で生活をしている。
同じ年頃の少女は元気に外を走り回っているというのに、彼女にとっての『世界』は、端から端まで歩いても10秒とかからず届くような狭い病室。
自由に外に出る事さえもままならない、重い症状であった。

「美希、遅れてごめん!」
そう言って病室に入ってきたのは真希。
学校の授業が終わって、バスに乗って病院へ来たところであった。

「今日はこれ!」
そう言ってカバンからスケッチブックを取り出し、今回の『新作』を美希へと見せる。
「これ・・・何?」
「うん、つぼみ。花のつぼみだよ。クラスのみんなで手入れしてるんだけど、もうすぐ花が咲きそうなんだ♪」
「そう・・・」

妹へ見せるために真希が精魂込めて描いた絵であったが、見るからにがっかりした表情の美希。
それについて怪訝な様子の真希。

「遅れてきたからどんなに凄いものを描いてくるかと思ったのに・・・」
「えっ・・・美希の為に頑張って描いたのに・・・」
「・・・なんなのよ!こんなものばっかり見せて、どうしろっていうのよ!」

『外の世界』へ出られない妹を喜ばせるために描いたものが、結果的に美希の機嫌を損ねている現状。
苛立ちと共にスケッチブックを閉じて真希へと突きかえす。

なぜそうなっているのかという疑問に、自ら納得のいく答えが出せず混乱が続く真希の心。
重苦しい空気の中、堂々巡りの気持ちが少しずつ膨れ上がっていった。そして、日頃抱えていた小さな不満がいつのまにか頭をもたげ、ついには爆発してしまうという最悪の状態に・・・。

「あんたなんかいなきゃいいのに・・・」
声を押し殺しつつも、その言葉の持つ意味はあまりにも深刻な重さを秘めている。

それは美希の耳にも、心にも届いていた。
「・・・お姉ちゃんは、私がいない方がいいの?」
姉の言葉に耳を疑い、自らの心に浮かんだ疑問を言葉にする美希。真希を直視する事はできず、床の一点をじっと見つめながらおそるおそる声を出した。
答えを知りたい、でもそれを聞くのが怖い。相反する二つの心情を抱えながら、真希の答えを待つ・・・。

感情の爆発で理性のタガが外れてしまった真希は、大きな声で不満をぶちまける。
「・・・そうよ!あんたが入院してるおかげで、うちの生活がどれだけ大変なのかわかってる?
お父さんがいなくなってお母さんも働きに出るようになって・・・。
私だって・・・大学行くの諦めなきゃいけないんだから!!」

「・・・そっか」
思いもよらない姉の言葉に打ちのめされた美希。力なく肩を落とす。
それ以上は言葉にならず、我慢しきれず嗚咽する声が漏れる。
美希の泣き声が大きくなるにつれて、真希の心の罪悪感もその大きさと重さを増していく。

自分の口から出た言葉の重大さに気づきながらも、非の全てを認められない真希。
スケッチブックを強く握るその手は白く、小刻みに震えていた・・・。


場面は変わり、桜田家の居間。
先に帰宅していた真希の前に、母の奈津紀が現れる。

「真希、昨日病院行ったの?」
「・・・うん」

問いかけられたことにだけ手短に答え、言葉を続けはしない真希。
その様子を見て、姉妹の間で起こった出来事の重大さを推し量る奈津紀。

「・・・ねえ真希、どうして美希にあんな事言ったの?
今日美希の着替えを届けに病院に行ったら、様子がおかしいから聞いたの。
どうして『美希がいなければいい』なんて言ったの!?」

答えに困る真希は、無言でいる事を答えとしているかのように押し黙っている。

「それにそのスケッチブック!真希がいろんな物を見せるから、美希が外の世界に興味を持つのよ・・・。もうそんなもの、捨てなさい!」
「いや!!お父さんと・・・約束したんだもん・・・」

涙にむせび、声にならない声を上げる真希。
一つの歯車が狂い、それが軋みを上げる頃には臨んだものとは全く違ういびつな形に・・・。
桜田家の親子間、姉妹間の関係は、父である春樹の死によってその形を変えざるを得なかった。
好むと、好まざるとにかかわらず・・・。

深い悲しみと共に、舞台は闇に包まれる・・・。


そして場面はジャムの部屋へと戻る。
力なくうなだれた真希を見下ろす、ジャムとマーガリン。

そう、ジャムの持っている力とは『相手の不幸を引き出し、悪夢を見させる』というもの。
心という最もデリケートな部分の傷をえぐられれば、誰であろうと戦意を失う。
完全なる敗北感を抱かせ、相手を蹂躙する事に至上の喜びを覚えるジャム。

また、ジャムが頂点に君臨する理由としてもマーガリンの存在を抜きには語れない。
マーガリンの能力で自らの意に沿わない相手の自由を奪い、ゆっくりと、そして一切の容赦も無く不幸の水底へ沈めていく・・・。

そのため、誰もがジャムとマーガリンを恐れるのである。


「わかりました・・・私の靴をあげます。だから・・・みんなを開放してください・・・」
顔を上げることもなく、ぽつりぽつりと言葉を吐き出す真希。
まるでこの世の全てに絶望したかのような、力の感じられない声。


先ほどまで自分の要求を頑なに拒んでいた相手が屈服した事、そして望みの品が手に入る事ですっかりご満悦のジャム。

マーガリンへ合図を出し、ジャンたちを呪縛から解き放つ。

身体が動かないながらも耳は聞こえ目も見えていた一同。
変わり果てた姿の真希を見て、軋む体の痛みも忘れて彼女の元へ駆け寄る。

ゆっくりと靴を脱いだ真希。
それを止めに入るドリー。

「やめるんだ!靴を渡すんじゃない!」
ドリーの必死の呼びかけにも、虚ろな表情のままの真希。
「いいの・・・もう、私が帰ったって居場所は無いんだから。本当はあの時、家出しようとしていたの。私を知っている人が誰もいないところへ行こうと思って・・・バスに乗ったの」

あれほどまでに元の世界に戻る事を強く願っていた少女が、今はその力のかけらも感じられないほどに弱々しく見える。
以前ジャムと対決した事のあるドリーは、彼女の恐ろしさをその身をもって知っていた。
このままでは取り返しのつかない事態になると判断し、真希を抱きかかえてその場から逃げ出す。
それに遅れることなく、ジャン、ココ、バルも後に続く。


手に入ると思っていた物が目の前から無くなり、怒りにまかせ追跡を命じるジャム。
即座にマーガリンが配下を呼び出し、真希の靴を奪うように号令する!
必死の逃走劇が繰り広げられ、無事にエリザの村を脱出した一同であった・・・。


どうにか追っ手を振り切ったものの、未だに放心状態の真希。

『エリザに向かい、西の魔女に会って望みを叶える』という一つの目標に向かって旅を続けていた彼らは、新たな目標を据える事ができず、その結束はズタズタになっていた。

これからの方針を話し合うが一向にまとまらない。
具体的な解決策が見つからない閉塞感から、それぞれの内に秘めていた不満が仲間へと向けられていく・・・。

ドリーは、探し求めていた婚約者エリーの手がかりが掴めたため『一刻も早くブルーグ村へ向かう』という事で頭がいっぱいになっていた。
だが焦りと苛立ちが悪い方向に働き、その矛先がココへと向かってしまう。

「君は両親を探していると言っているが、そんなものはいない。人間にしろ動物にしろ、父親と母親から子供が生まれるものなんだ。君以外のかかしが親子でいるところなんて、見た事有るのか!?」

それに対して返す言葉が無いココ。まだ見ぬ両親に会いに行く事を支えに旅を続けてきた彼にとって、一番こたえる言葉であった・・・。

どんどん険悪さを増す中、意外な人物が声を上げた。
「喧嘩しないで!お願いだから、ケンカしないでよ!!」
そう言ったのはバルだった。

サーカスを追い出された自分を優しく迎え入れてくれた仲間たちが、事情はどうあれいがみ合っているのは耐えられなかった。
そう、彼にとっての『ありったけの勇気』を振り絞って出た言葉だったからこそ、皆の心にも響いたようだ。
ドリーはココへと詫び、改めてこれからの行動を皆で話し合う。


仮に追っ手を振り切っても、西の魔女ジャムの脅威が去った事にはならない。
ジャムに対抗する手段を検討する一同。

「そうだ、幸せを呼ぶという北の魔女の話を聞いた事がある。北の魔女を探してみないか?」
そう言ったドリーに対し、ジャンは表情が暗い。
「でも、北の魔女は姿を消しているそうだよ。もう2年も姿を見た者はいないって」と返すジャン。

とはいえ、他には具体的な情報も解決策も見つからない。
まずは手がかりだけでも、という事で、一行は北の森へ向かう事に。

一刻も早くブルーグ村へエリーを探しに行きたい気持ちを抑え込み、仲間のための最善の策と自分に言い聞かせるドリー。

そしてもう一人、新たな決意をした男が。
「僕が・・・僕が真希をおぶっていくよ。僕が・・・真希を守る」
そう言って、よろめきながらも自らの背に真希を背負い、まっすぐに前を見据えるジャン。
そこにはもう、これまでの頼りなさげなジャンの姿は無かった。

ブルーグ村で孤独な生を送っていただけのジャン。
真希がいたからこそ、彼は外の世界へ出られた。
真希がいたからこそ、新しい仲間もできた。
そう、真希がいたからこそ・・・。

一つの決意が彼を変えたのであった・・・。


北の魔女が済むというマルスの森は、太陽の光が差さない暗くて寒い場所。

あてどもなく森を歩く一行の耳に入ったのは、遠くから聞こえる話し声。
物陰に隠れた一同の前に現れたのが2匹のコウモリ。
人と変わらない大きさのコウモリ、ゲジとクジだった

「なぁ、あれ、貸してくれよ!」とクジに話しかけるゲジ。そしてクジから手渡された小瓶のフタを開け、その中に入っている液体の匂いを嗅ぐ。
途端に恍惚の表情を浮かべるゲジ。
何度も何度も匂いを嗅いで、その快感に酔いしれている。

「おいおい、なんだろな、アレ?」と思わず口に出してしまったココ。
好奇心旺盛なのは結構であるが、あまりにもタイミングが悪すぎた。

案の定、コウモリたちに見つかってしまう。
そして真希が履いている靴に気付き、目の色を変えるクジとゲジ。
「あいつの靴を西の魔女に持っていけば、大金が手に入るらしいぞ!!」

真希たち一行は、今や賞金首のような状態。
西の魔女からのご褒美目当てに、真希たちを追ってくるものは次から次へと出てきてもおかしくはないのである。

とても万全とは言えない状況のため、逃げ出そうとした一同を激しい頭痛が襲う。
ゲジの特殊能力は超音波。周囲の空気を激しく震わせ鼓膜を刺激し、激しい頭痛を引き起こす。

そしてクジが持つのは、相手の動きを止め、自分の動きとシンクロさせる能力。
対象の動きを支配する事で、自分の動きを相手にも強制させる事ができるのである。

一同がクジの能力で動きを止めている状態のまま、ゲジの手は真希の靴を奪うべくして足もとへと向けられる。

そこでドリーが渾身の力を込めて身体を少しずつ動かし、ジャンに何かを耳打ちした。
それを受けて、ジャンはスケッチブックに手を伸ばす。
かろうじて動いた手でペンを握り、スケッチブックへ何かを描いた。

すると日の光が差さないはずの暗い森の中に、燦々と輝く太陽の光が差したのである!
そう、コウモリにとって日光が弱点だと見抜いたドリーは、ジャンの持つ『描いたものを具現化できる』という能力で太陽を描かせたのであった。

たまらず悲鳴を上げるゲジとクジ。真希の靴で得られる賞金よりも、自らの身の安全を優先させるべく逃げ去って行った。
安堵の表情を浮かべる一同。ひとまず、危機は去ったようだ。


「おっ!?何だ、コレ?」
ココが拾い上げたのは、先ほどまでゲジが持っていた小ビン。

好奇心旺盛なココはフタを開け、臆することなく中の液体の匂いを嗅ぐ。
すると、幸せいっぱいの表情を浮かべて寝そべってしまった。

ココの様子に驚く一同。
声をかけても頬を叩いても、きちんとした反応が返ってこない。

と、そこへ「コウモリに水を盗まれて、困っていたのです」と女性の声が。
そして美しい歌声とともに現れたのが、北の魔女アマンダ。

『幸せを呼び起こす水』の入った小ビンをコウモリたちに奪われていたアマンダ。
取り返す術が無く困っていたところ、結果的に真希たち一行が水を取り戻した。
それにより、ようやく姿を現せたのであった。


瞳に力の無い真希を見て事態を察知したアマンダはこう告げる。
「お礼に幸せをあげましょう」と。

ジャムが持つ『不孝を呼び起こす力』とは対極の力を持つのが、アマンダの持つ水。
彼女はその力で真希を救う事を申し出たのである。

真希を自分の前に座らせたアマンダは、小ビンのフタを開け、その香りを少しずつ真希へと嗅がせる。
すると、生気の抜けた真希の表情が、少しずつ安らかなものへと変わっていく・・・。


・・・そこは真希の心の中。

暗闇から人影がぼうっと浮かび上がる。それは見覚えのある、愛おしい姿。

現れたのは父の春樹と母の奈津紀。その姿は自分の記憶にある彼らよりもずっと若々しかった。
そして母の腕の中には、産着にくるまれた赤ん坊が。
その安らかな寝顔を見つめる父と母の顔は、無償の愛に満ち溢れていた。

家族の幸せな時間・・・。
こんなにも近くにあったのに、なぜ気付けなかったのだろう?
気付けなくなってからどれくらい経ったのだろう。
その失った時間を一瞬で埋める程、たまらなく愛おしさが溢れ出しているのを感じる。

そして目を開いた真希。
ぼやけた視界は、彼女の目からとめどなく流れている涙によるものだった。
それまでの真希を支配していた心の闇は消え去り、代わりに温かな気持ちで満たされていた。
「お母さん・・・お母さんに会いたい!美希に会いたい!!」


真希の復活に歓喜の声を上げるジャンたち一同。

「ボクにもお願い!」とアマンダへ頼み込むココ。
だが、アマンダは「幸せを摂り過ぎては毒になります」と優しく答えてココを諭す。
・・・実に、身につまされる言葉である。


自分を取り戻した真希は、元の世界に戻る方法をアマンダへ尋ねる。
「わかりました。その為の場所へあなたたちを送り届けましょう!」と快く返事をし、呪文を唱えるアマンダ。
すると、巨大なホウキが目の前に現れた!

この後の行き先も元の世界に戻る手段も聞かされないうちに、促されるままホウキにまたがる真希たち。
そしてアマンダの呪文が響き渡ると、ホウキと共に真希たちの姿は消えていた。

そこに残ったのは、穏やかな笑みを浮かべるアマンダだけ。
短い時間であったが、強い意志を秘めた若者たちに出会うことが出来て、自らの心も踊っていたのであった。


・・・気が付くとそこは真っ暗な部屋の中。
ひんやりとして少しほこりっぽい空気。
様子から言って地下室のような場所と考えられる。

そこでふと、何かが動いた気配がした。
一同の前を素通りしていく『それ』は、間近で見えた限りでは人の様な形をしていた。
だが人らしい息遣いも気配もしない。

そして『それ』に最も驚きを見せたのはドリーだった。
忘れられるはずもない、最愛の女性エリー、その人だったのである!
歩き去った方向を見つめたまま呆然としているドリー。

そして間もなく、新たな足音が聞こえてきた。
新たな追手が来たものかと警戒し、隠れる一同。

小さなライトの光が暗い室内を限定的に照らしている。
ペンライトで足元と周囲を照らしつつ、ゆっくりとした足取りで歩いてくるその人物は、部屋の真ん中まで来ると誰かを呼んだ。
「エリーや、部屋の明かりを点けておくれ」
そう言った声はしわがれた男性の声。

彼の合図により明るくなった室内で、白衣に身を包んだ研究者らしい風体でそこに立っている。
真希とジャンは物陰に隠れ、ココとドリーとバルは置いてある人形の間に紛れ込んでいた。『木の葉を隠すには森の中』ということか、やってきた老人には気付かれていない様子。
だが、老人が口にしたその名前に、ドリーの胸は高鳴る!

老人はブツブツと何事かをつぶやきながら、部屋にある人形や何かの材料をチェックしている。
すぐさまその作業が終わる様子は感じられない。

じっとしているのが性に合わないココは、じれったくてたまらない様子。
「なぁ、いつまでこうしてるんだ?」
「おい、ココ!不用意に声を出すんじゃない。なぜ君はいつもそう・・・」
ひそひそと話しているうちにお互いの言葉がエスカレートし、最終的にココが大声を上げた事で隠れ続けてはいられなくなった。


声の出どころへやってきて、しげしげとココを見つめる老人。
「はて、こんなかかし、置いてあっただろうか?ずいぶんと汚れた服を着ているなぁ・・・」
そう言ってホコリを落とそうとするオルバー。
彼にとっては動かないかかしを掃除しているだけなのだが、当のココにとってはくすぐったい事この上ない。
初めは声を抑えていたが、我慢の限界を迎えて笑い声を出してしまうココ。

当然それに驚く老人。だが、彼の驚きの理由は侵入者がいた事ではなかった。
『自分の目の前にいるかかしが言葉を発した』という事が彼にとってショックに近い事だったのだから。

「ついに・・・ついに成功したぞ!!ブルーグ村に落とされもう何年経った?人間に似ている人形やガラクタを集めて何年経った・・・?ついについに言葉をしゃべるものが完成した!何という・・・何という進歩だ!!」

すっかり自分の世界に入ってしまい、周りにいる人にはお構いなしの状態で盛り上がっている。

「こいつもダメ、こいつもダメだったんだ・・・エリー、驚け!おまえも言葉をしゃべれるようになるはずだ!」と、部屋の奥へ向かって叫ぶ老人。

彼の名はオルバー。生まれた時からこの世界に居たわけではなく、彼も真希やジャンと同様、別の世界からブルーグ村へ落ちてきた人間の一人であった。
そしてこの場所は、ブルーグ村のはずれにある彼の研究室であった。

アマンダの導きは、何を意味しているのだろうか・・・。

改めてココへと話しかけるオルバー。
「おまえ、いつから言葉をしゃべれるようになった?」
「あいにくボクは生まれた時から言葉を話せるぜ。それにボクはあんたに造られた覚えはない!」
「・・・おまえ・・・ココか?」
「なんで知ってんだ!?」
「・・・間違いない!私が若い頃、初めて造ったかかしではないか!」
「おい・・・嘘だろ・・・?」

驚きで言葉が続かないココ。
「じゃあ、この人がココの探していた・・・」とつぶやく真希に対し、ココは必死に否定する。
「違うよ!こんなの、ボクの父さんでも母さんでもないよ!!」

思い描いていた両親とはあまりにもかけ離れている現実に、戸惑いを隠せないココ。
様々な想いが交錯してぐちゃぐちゃな心のまま、皆に背を向けて必死に気持ちを整理しようとする・・・。


そんなココをよそに、ドリーは意を決してオルバーに質問をぶつける。
「彼女は・・・?」
「以前、村の入り口に捨てられていたあの子を拾って、動けるようにしたんだ。君の知り合いかい?」
「・・・はい、エリーは・・・結婚を誓った相手です」
「そうか・・・」
オルバーはそうつぶやいただけで、どのような言葉を選べばよいか考えあぐねていた。

オルバーの元で生活するようになってからは、エリーはオルバーの手伝いをしてきた。
オルバーの問いかけに反応し、言っている言葉の意味も理解していた。
だが、これまでに一度もエリーから話す事は無かったのである。
まさか、これほど過酷な身の上だったとは・・・。


これまでの経緯をオルバーへ説明しようとした一同。
するとそこへ、女の子特有の元気な声が。

やって来たのはブルーグ村の3人娘、ダン・ロンたち姉妹とハナだった。
ハナは門番のリーナの娘であり、オルバーの実の孫。
真希がこの世界にやって来る前から、大人たちの目を盗んで時々オルバーの元に遊びに来ていたのであった。

「大人たちは真希を探しているよ!」
村の様子を真希たちに教えてくれるところを見ると、この子たちは真希にとって味方の様だ。
ジャムの魔の手が近くまで及んでいる事を思い、いよいよ状況はシビアになっていく。


ふと、ダンが何かに気付いた様子。
「やっばーい!母ちゃんが来るよ!」
彼女の耳は遠くの声や音も拾う事ができる。
「みんな、隠れるんだ!!」
オルバーの号令一下、真希たちは物陰へ隠れて様子をうかがう。

そしてダンとロンの母親、アニーがやって来た。
「オルバー、あんたはもうちょっとしっかりしてると思ってたよ!遅い時間にならないうちに帰る様に、うちの子たちに言っておくれよ!!」
相手が年上であってもお構いなしで大声を上げるアニー。

「あぁ、わかったよ」
いつも通り、穏やかに答えるオルバー。
ひとまず言いたい事を言い終えたアニーはダンとロンの頬をつねり、「あんたたち!出かけるときには行き先をきちんと言うもんだって、何度も言ってるだろ!?わかんないのかい!!」と娘たちの勝手な行動を叱る。
口答えをすればよけいにアニーの怒りを買うのみ。
それ以上雷が落ちないようにと、駆け足で家へと帰っていくダンとロン。

「だいたい、あの真希って娘が近くにいるかもしれないのに・・・面倒なことにならなきゃいいがねぇ・・・」とため息交じりにつぶやくアニー。
「えー!?真希たちは悪くなんて・・・むぐむぐっ」
アニーの言葉にストレートに反論しようとしたハナであったが、その口を塞いだのはオルバー。
大人同士の駆け引きは、ハナにはまだまだ早い様子である。


子供達を先に帰らせて、いざ自分もその場を離れようとしたアニーは、ふと床に落ちているものに目を止める。
それを拾い上げ、何かを思案しながら入口へと戻っていく・・・。


アニーが完全にその場を離れた事を確認し、隠れていた真希たちは物陰から出てきて会話を再開する。

「何か深い事情が有るようだねぇ・・・」

真希は今までの出来事を、余すことなくオルバーへ伝えた。
「私、元にいた世界に帰る方法を探しているんです!」

彼はこれまで蓄えた知識を総動員して、その答えを導き出そうとする。

「・・・元の世界・・・君は別の世界からやって来たのか。・・・ここへ来るとき、何をしていた?」
「私・・・バスに・・・そう、バスに乗っていました!」
「バス?それはどういうものなのかな?」
「えっと・・・たくさんの人を運ぶ乗り物で・・・」

オルバーがこれまで拾い集めてきたものの中には、機械の絵や設計図などが多数有った。
それにそういったものは彼の研究にとって興味の対象となるものだった事も幸いしていたといえる。

自転車・・・自動車・・・あれやこれやと絵を出すオルバー。
そして、ようやくバスの絵が出てきたところで、真希の顔が輝く!


目的の物がわかったのは一歩前進だが、材料に関する現実的な問題が残っていた。
まずは必要な材料をリストアップし、ドリーの能力で周囲のガラクタの中から材料を探し出す。

その結果、これまでオルバーが収集してきた材料である程度はまかなえる事はわかった。
だが、バスほどの大きさの物を作るには大量の鉄やゴムが必要になる。
どうやってそれを調達すればよいのか・・・。

すると、みんなが同時に一つのプランをひらめいた!
「ジャンが絵を描いて部品を作って、バルがそれを大きくする!そしてドリーが加工して組み付ければ・・・!」
プランが完成した事でようやく見えてきた光明に、嬉々としてそれぞれが自分の仕事へ取り掛かっていく。

「ボクは・・・みんなを応援するよ!」
そう言って精一杯元気に振舞っていても、元気が無い様子のココ。
実際にバスを作る工程に、ココが担当するパートは無かった。みんなが一所懸命に作業に取り組んでいる姿を見て『自分の役立つ事が見つけられずに居場所がない』ような気持ちになっていたのだろう。

誰かがそんな事を言ったわけでないが、人一倍『みんなの力になりたい』という気持ちが強いココだからこそ抱える悩みなのかもしれない・・・。


着々と作業が進んでいく中で、休憩の時間。

バスが完成した後のそれぞれの行動について話し合っていた。


話のバトンがココに渡るが、浮かない表情のままで何も話そうとしない。
両親を探すために旅してきたものの、自分がオルバーによって造られた存在だという事実を未だ受け入れられずにいる。
そんなココへ、穏やかな口調で話しかけるオルバー。

「ココや、おまえの父さんは私だよ」
「・・・じゃあ、母さんは?」
「ああ、それも私だ」
「なんだよそれ・・・!そんなの・・・」

優しく語りかけるオルバーの人柄は認めつつも、素直に喜べない自分がいる。
そして、オルバーは言葉を続ける。

「おまえさんは、頭が良い。それは私譲りのものだろう・・・」
「おまえをはりつけにした村人達はな、おまえの事を恐れたのだよ。人は優れたものを前にすると、恐れをなすものなんじゃ・・・ココ、お前さえ良ければ、わしと一緒に暮らさないか?」

驚きの表情を浮かべた後、そっぽを向いてこうつぶやく。
「ちぇっ、仕方ねぇなぁ・・・」と・・・。
言葉では渋々了承したような口調だが、心は弾んでいるのは周りの誰もがわかっていた。
気付かれていないと思っているのは本人だけ、のようだが。


自分の問題が一区切りついたココは、ドリーへと声をかける。
「おまえもはっきりしとかなきゃいけない事が有るだろ?」

そう促されてようやく決意を固めたドリー。
エリーの前へ歩み寄り、その瞳をまっすぐに見つめて語りかける。

「エリー、私の話を聴いてくれ。君は私の事を覚えていないかもしれない。だが私は君がいなくなってからというもの、胸が張り裂けそうだった。私の身体の中心に、ぽっかりと穴が開いてしまったようだった。でも、ここでこうして君と再び会う事ができた。・・・お願いがある。私と一緒に暮らさないか?」

そう告げたドリーは、ゆっくりとエリーの身体を抱きしめる。
人間としての身体はすでに失われてしまった2人。だが、ドリーの胸はこれまでにないほどに熱く高鳴っていた。

すると、エリーの左腕が少しずつ動き始め、彼女の背中に回されているドリーの腕へと触れたのである!
そして・・・。
「・・・ド・・・リー・・・会い・・・たかっ・・・た・・・」
「・・・エリー?・・・エリー!!」
たどたどしく、消え入りそうなほどかすかだったが、それは紛れも無くエリーの声。
ドリーの元から引き離されてからもずっと、その心は彼を求め続けていたのである。

ようやく二つの引き合う魂が再会し、結びついたのである。
真希たちも目頭が熱くなるのを抑えられなかった・・・。


バスの完成を目前にして、真希はみんなにそれぞれの意思を確認する。

「私はもう長いこと、この世界にいる。それに家族もいるしな。この世界に骨をうずめるよ」とオルバー。
ハナやリーナ達は彼にとってかけがえのない存在になっていた。

ドリーはようやく再開する事の出来たエリーと一緒に暮らすそうだ。
一度離れてみて、彼にとって『エリーがどれほどかけがえのない存在であるか』を心から痛感した。例えお互いが人間の身体を失ったとしても、エリーである事に変わりはない。

バルもこの世界に残るとの事。
団長を初めとして、タオサーカスのみんなが大好き。だから一緒にいたいんだそうだ。
真希たちを見送った後、タオサーカスへ戻る決意をしていた。


順調に作業が進んでいく中、いよいよ完成目前。

「ようし、ドアが出来たぞ!これを取り付ければバスの完成だ!」
最後のパーツがドリーへと手渡され、ついにバスが完成!!

「ようし、それではバスに命を吹き込むとしようか」
そう言ってオルバーは何かつぶやいた。
すると、バスから大きなクラクションが!
オルバーの呼びかけに答えたのである。

「よしよし。バスよ、この子らを元いた世界に連れて行ってくれるかい?」
言葉での返事の代わりに、景気の良いクラクションが返ってきた。

オルバーから真希へと、帰るための手順が説明される。
「真希、君が履いているその靴のかかとを鳴らして願いを言うんじゃ。『元の世界に帰りたい』とな・・・」


いよいよ、真希とジャンがこの世界から旅立つときが来た。
別れを惜しむ一同であったが、事態は急展開を迎える。

「みんなー!大変だーー!!」
ロンの大きな声でハッとする一同。
ダン、ロン、そしてハナとその母親のリーナが、明らかにただ事ではない様子で走ってきた。
事情を説明する間もなく、招かれざる客が!
アニーの先導で、ブルーグ村の村人や賞金目当ての人達が大挙して押し寄せてきた!!

そう、先ほどアニーが拾い上げたのはワラ。
ココの身体からこぼれ落ちたワラを見て、真希たちが潜伏している事に気付いたのである。

「あんたにはがっかりだよ、オルバー!・・・さぁ、こいつらをとっつかまえて、引き出すんだよ!!」
アニーの号令一下、容赦なく襲い掛かる村人たち。中には武器を持った者さえいる状態。

そしてそこに、パジャマ姿の美希の姿が!
病室で寝ているはずの美希が、目の前に現れたのである。
決して幻ではなく、美希本人であった。
かばうように美希を抱きしめる真希。

ドリーやバルはそれぞれに応戦するが、戦えない人の方が多すぎる。それに相手との圧倒的な人数差は、気合や根性だけで到底埋められるものではない。


あっという間に形勢は不利な状態に・・・。
必死の抵抗も虚しく、ついに捕まってしまうかと思われたその時!!

そこで真希たちと村人たちの間に割って入ったのが、ココ!
その手に固く握られているのは・・・ライター!?

「真希、行くんだ!!ここはボクが食い止める!!」
ココの真意を量りかねる一同。
だが、その直後・・・もっとも残酷で、もっとも悲壮なココの決意を目の当たりにする!!

ココは手にしたライターの火を点け・・・その小さな火種を自らの身体へと移していく!!
そして、村人たちの前に仁王立ちした!!
「どうだああぁぁぁ!!ボクはぁぁ、みんなのぉぉ!役に立つんだああぁぁぁぁ!!」
自らの身体を燃やして村人達の行く手を阻み、真希がバスに乗り込む時間を稼ぐのだった・・・。

今やココの全身に燃え移った炎は、真希たちを捕えようとする村人たちを完全に圧倒した。
多勢に無勢・・・やむを得ない状況だったとはいえ、あまりにも残酷な決意。
ココがココなりに考えた結論であった。


誰もがココの身体を案じるが、すでにどうする事もできなかった。

悲鳴と怒号の飛び交う中、ジャンと美希の手を取った真希が靴のかかとを鳴らして叫ぶ!
「元の世界に戻りたい!!!!」
それに呼応して響き渡る、バスのクラクション。


・・・そうして、真希、美希、ジャンの姿は無くなっていた。

燃え盛る炎はすでに力を失い、ゆらゆらと煙を上げてくすぶっているのみ。

つい先ほどまで狂乱の中にいたいた村人たちも捕まえる対象がいない今となっては、もはや何も言わずに座り込むばかり。

そしてがっくりと膝をつき、床の一点を見つめるオルバー。
その視線の先には・・・燃え残った数本のワラが散らばっているのであった。
ポタリ・・・ポタリと音を立て、床に落ちた雫が黒い点を次々に作っていく・・・。

辺りは静寂に包まれる・・・。


真希が目を開けた時、真っ白な世界に包まれていた。
そこに背景も物も無く、ただ目の前にジャンが居た。
その空間に、真希とジャンの二人きりだった。

「美希に会いたい・・・、お母さんに会いたい・・・!」
「もう大丈夫、もう帰れるよ、真希」
「でも、みんなにさよならを言ってない!」
「後ろを見ちゃダメだ」
「でも・・・」

どうすることも出来ないながらも、みんなと過ごした時間を想って涙をこぼす真希。
そんな彼女を見て、優しく、そして力強く声をかけるジャン。

「もう辛くないよ、もう大丈夫だ、真希。だから、後ろを見るな」

涙をぬぐい、ジャンをまっすぐに見据えて話しかける。
「あなたに会えてよかった」
「君に会えて良かった」
真希の言葉を受け取り、言葉を返すジャン。
お互いに微笑みながら精一杯の感謝を込めて・・・。

「空の色は何色か知ってる?・・・何色でもないの。これは私が忘れたくなかった事」
真希の言葉に、うなづきで答えるジャン。
「君に会えてよかった・・・僕、元の世界に戻ったら絵を描くよ」
そして心に浮かんだ混じりけの無い純粋な気持ちを言葉にして伝える。

「もう会えなくなるの?ここに居た事も、みんなと出会えたことも・・・あなたに出会えた事も・・・忘れたくない!」
真希の揺れ動く気持ちを包み込むようにつぶやくジャン。
「大丈夫。必ず・・・」

そして、その言葉を引き継ぐように「必ず・・・会いに行く」と言葉を紡ぐ真希。

「必ず迎えに行く・・・それまで覚えていてほしいんだ・・・もっともっと、君の笑顔が見たいから」
そう言ってジャンは微笑みながら、真希の手を取る。

「メモの1ページ目。僕の名前はハルキ。忘れてほしくない事だから・・・こうやって、書いておく・・・」
そして真希の手をそっと離したジャン。
彼は少し顔を上げ、何かを想う。
その仕草に、真希は不思議な懐かしさを覚える・・・。


そしてジャンの姿が徐々に薄れていき、辺りが完全なる白に包まれる。
それは慈愛を形にしたかのような白。彼女を優しく包み込む、温かで親密な・・・。


・・・やがて舞台に現れたのは、病院の中の美希の病室。
スケッチブックに描かれた数々の絵を、嬉々として見つめる美希。
病院の外へ出られない美希にとっては、数十センチの枠の紙の中で無限に思える果てしない世界が広がっているようにも思えるのだろう。


そこへ慌てて駆け込んでくる真希。
弾んだ息を整えつつ、ベッドに腰掛けていた美希の隣に座る。
そして、一緒にスケッチブックを手繰っていく。

ふと、あるページに目を止めて驚きの声を上げる。
「ねえねえ、お姉ちゃんの絵が描いてあるよ!」
「えっ?・・・これ、私じゃない」
「でもそっくり・・・じゃあ、誰なんだろう?」

ふと病室のドアが開き、母の奈津紀がやってきた。

「あら、もう見てたのね?」
「これ、お母さんが持ってきてくれたの?」
「そうよ。お父さんの思い出を独り占めしてるのも勿体なくて」

二人が見ていたスケッチブックは、父が生前使っていたもの。
母が美希に見せようと、父の死後からしまい込んでいたものを出して美希の病室の前に置いていったのであった。

様々な絵が描かれていたが、やはり姉妹の興味は真希そっくりの人物画に。

「あら、これ、私よ」
二人が真希だと思っていたその絵の人物は、母の若い頃の姿であった。
そう告げた母は、父との馴れ初めについて話を始める。

「お父さんとは大学の構内で初めて会ったの。そのスケッチブックを広げて絵を描いてたお父さんの近くを通った時、いきなり声をかけてきて「あなたの絵を描かせてください!」って・・・」
「何それぇ!?お父さん、変なの!」と言いながら、父と母の恋の話に興味津々の美希。

「真希はお母さん似。美希はお父さんに似たのね」
そう言ってスケッチブックを通して家族の出来事を思い返している母を見て、真希はこれまで抑え込んできた感情を開放した。

「お母さん、ごめんなさい!美希、ごめんなさい!!」

そう言って小さな子供のように泣きじゃくる真希を見て、美希は驚きの表情を浮かべる。

そして母にとっては、どれだけ大きくなろうとも娘は娘。
手がかかっても、時には親の思惑を超えていこうとも、大切な大切な、愛しい娘・・・。

そして奈津紀は真希と美希の肩を等しく抱いて、優しく包み込む。
そこに言葉は、必要なかった・・・。


真希の気持ちが落ち着いたところで何かに気づき、からかうように声をかける母と美希。
「真希、顔、擦ったでしょう?のびちゃってるわよ」
「ほんとだー、お姉ちゃんったらぁ!」

何を言われているのか、ピンとこない真希。
試しに自らの頬を手で擦ってみると、そこには黒いススが・・・。

そう、あの世界での出来事は・・・・・・!!



・・・そして作品はフィナーレへ!

スケッチブックへ軽やかに筆を走らせる真希。
傍らでその様をじっと見つめる美希。

「空の色も、海の色も、全部全部忘れない・・・こうやって全部残すから、
忘れたらまた覗けばいい、忘れたらまた歌えばいい」

彼女たちの前を行き過ぎる『あちらの世界』の面々。
真希やみんなの想いが、歌となって流れていく。


手にしたメモに何かを書き込み、また一つ、知識を蓄えていくジャン。
彼が真希たちと過ごした時間は、彼の運命の物語の在りようを大きく変えた。そして、また新たな1ページが刻まれていく・・・。やがて来る『再会』に向かって・・・。

「花の色も、星の色も、全部全部忘れない・・・こうやって全部残すから、
忘れたらまた聞けばいい、忘れたらまた伝えればいい」


ブルーグ村の三人娘と、肝っ玉母ちゃんのアニー、そして門番稼業を続けるリーナ。
相変わらずドタバタしながらも、和気あいあいと楽しそう♪
娘たちの行動は時に目に余るものであっても、それは元気な証に他ならない。
子供が笑顔で走り回っている様は、どの国でもどの世界においても、何物にも代えがたい宝なのだ・・・。

タオサーカスの舞台裏では、団長が重たい荷物を苦労して運んでいる。
そこへ戻ったバルは、団長が難儀していた荷物を軽々と運ぶ。
改めて団長へ向き直り、これまでの事を素直に謝って「これからも一緒にいたい」と伝える。
肩を組んでバルの帰還を祝う団長。
彼もなんだかんだ言って、バルの事を気に入っているらしい。
・・・彼が求めていた勇気も本当は、初めからバルの中に眠っていたのだ。

「一人のときも、二人のときも、何もかも忘れない・・・こうやって全部残すから、
忘れたら踊ればいい、忘れたら遊べばいい」


ドリーはオリオンの森に戻り、木こりの仕事を再開していた。
作業が一段落ついたところで、ご飯の支度を終えたエリーが彼を呼びに来た。

食卓に向かい合って座り、食事をとる2人。
エリーの手料理を食べ、ご満悦のドリー。愛に勝る調味料は無いわけで・・・。
喜んで一口一口を頬張るドリーの姿を見つめるエリー。言葉や表情には表せずとも、彼女もまた、最愛の人との暮らしに幸せを感じているのだった。

「君の寝顔も、君の笑顔も、全部全部忘れない・・・こうやって全部残すから、
忘れたらまた愛せばいい、もう一度愛せばいい」


ジャムとマーガリンの関係は相変わらず。
食べ物を、きれいな洋服を、様々な注文を遠慮なくつけるジャムに対し、甲斐甲斐しくそれに従うマーガリン。
村人や門番を集めて舞踏会を開き、ご満悦の様子のジャム。それを暖かく見つめるマーガリンであったが、次なるジャムの命令に即座に答えて日は暮れていく・・・。

「美味しいものも、キレイなものも、全部全部忘れない・・・こうやって全部残すから、
忘れたらまた食べればいい、忘れたらまた飾ればいい」


北の魔女アマンダにとうとう捕まり、縄で手を繋がれたコウモリのクジとゲジ。
これまで好き勝手してきた報いとばかりに、アマンダは空飛ぶホウキでコウモリたちをあちこち連れ回す。
これはこれで、みんな楽しそう・・・。

「冷たいときも、暖かいときも、全部全部忘れない・・・こうやって全部残すから、
忘れたらまた触れればいい、忘れたらまた感じればいい」


そこはオルバーの研究室。
興奮気味のオルバーの前に立つのは、ココそっくりの容姿のかかしであった。
燃え残ったわずかなワラを使い、再構築した体だった。

そしてかかしへ命を吹き込むオルバー!
・・・ゆっくりと目を開けるかかし。
目を見開いてその挙動を見守るオルバーに対し、かかしはニッコリ笑いつつ、握った拳を彼のみぞおちへ叩き込む!
これまでのココの記憶も含め、ココがココとして甦ったのだ!
・・・まぁ、愛情表現が若干屈折しているのは否めないところ。
涙とともに胃液も流し、嬉しいような困ったような、いろんなものが湧きあがるのを感じるオルバーであった。

「大切なことも、教えたことも、全部全部忘れない・・・こうやって全部残すから、
忘れても一緒に暮らそうか、忘れてもまた教えてあげる」


手を取り合って歩く真希の父と母。今は亡き父は空の上から、母は真希と美希を傍らから見守っていく。
命と命の触れ合いやその連鎖の素晴らしさを、身をもって教えるべく・・・。


そうして全員が集まり、その一番前で真希とジャンが向き合う。

「大切な君を・・・僕はずっと忘れない・・・必ず、迎えに行く」
「僕はずっと・・・忘れない」

それは真希に、そしてこの物語に触れてくれた一人一人に向けた言葉だったと・・・私は信じている。
スポンサーサイト

笑いました

解釈はそれぞれだと思いますが…(笑)

笑ってくれてありがとう

> Tsubasaさん
稚拙な文章にお付き合いいただき、ありがとうございました!!
拾い読みするだけでも骨が折れたでしょうに・・・。

『解釈はそれぞれ』とは、私も同感です♪

お疲れさまでした~

これだけ書くの、たいへんだったでしょう。
ケンタさん、感動してましたものね~。
私もおかげさまで、
久々に若い演劇人たちの熱気をじかに感じることができてうれしかったです。

きむらゆうかさん、さすがでしたね。
男優さんでとっても上手い方が何人かいて、楽しめました。
ただ、うまい役者さんとそうでもない役者さんとのギャップがあるのが、
こういう劇団の難しいところですね・・・

ありがとうございます!

> ちかさん

ありがとうございます♪
ペース配分を気にせず長時間パソコンに向かってたので、身体が悲鳴を上げてました(笑)
特に背中と腰が・・・。
でも、自分の気持ちで感じたものは形にできたと思います♪

ちかさんとお嬢さんにも、観て頂けて本当にうれしかったです!
自分が勧めたものが他の人に認めてもらえるのって、直接の当事者じゃないですけど嬉しいですね♪

きむらゆうかさん、やっぱりスゴいです。
特にココが自分の身体に火をつけた直後の演技、圧倒されました!
他の俳優さんもイイ味出してる人ばっかりでしたね(笑)

俳優さんの力量のバラつきも、有るかもしれませんね。
そういった方の今後の成長を間近で見られるのも、舞台演劇の魅力の一つかもしれません。
今後も機会が有れば、ぜひ劇場へ♪
Secret

地球の名言


presented by 地球の名言

プロフィール

ケンタ

Author:ケンタ
おいしい食べ物への好奇心が人一倍(一説には3倍)の男です。
自分が美味しいものを見つけるのが嬉しいのはもちろんですが、それを他の人に教えて喜んでもらえる事がより嬉しいです。
まだまだ知らない美味しい物を探しまくります!

最新記事

最新コメント

最新トラックバック

FC2カウンター

FC2カウンター

現在の閲覧者数:

月別アーカイブ

リンク

検索フォーム

QRコード

QRコード
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。